日本のパワー半導体再編、二つの設計図──ローム・東芝・三菱電機の横連合か、デンソー主導の垂直統合案か

ローム(6963)、東芝、三菱電機(6503)の3社が、パワー半導体事業の統合に向けた協議を始めることで基本合意した。調査会社オムディアの推計によると、3社合算の世界シェアは11%超となり、業界首位のドイツ・インフィニオンテクノロジーズに次ぐ2位級の規模になる見込みだ。

ただ、今回のニュースの本質はシェアの数字より、その裏で進む「二つの設計図の競合」にある。ロームの前には今、まったく異なる二つの道が並んでいる。東芝・三菱電機と組む「横の統合」か、自動車大手デンソー(6902)に取り込まれる「垂直統合案」か。日本のパワー半導体産業の行方を左右する選択が、今まさに進行中だ。


目次

パワー半導体とは何か──電気を動かす半導体

パワー半導体とは、電流や電圧を変換・制御するための半導体だ。電気自動車(EV)のモーター制御、急速充電器、工場の自動化設備、鉄道の牽引システム、送電網、データセンターの電源管理など、あらゆる場面で電気の流れを効率よく制御するために使われる。計算を行うCPUやGPUとは異なり、「電気そのものを動かす」半導体であり、省エネ社会とデジタル化の両方を支える基盤部品だ。

このパワー半導体には、主に二つの材料がある。従来型の「Si(シリコン)」は量産性が高く幅広い用途に対応する一方、次世代材料の「SiC(炭化ケイ素)」は高電圧・高温環境でも効率が高く、EVや高効率電源での採用が急増している。今の競争では、Siを安く大量に作る力と、SiCを高品質で量産する力の両方が問われる。


3社はどこが強いのか──補完し合う技術と市場

今回協議に合意した3社は、それぞれ異なる強みを持つ。

ローム(6963)は、SiCパワーデバイスの先行メーカーとして世界的に知られる。車載用途や電源関連での実績が厚く、GaN(窒化ガリウム)パワーデバイスの強化も進めている。2023年12月には東芝との製造協業を発表しており、今回の3社協議はその延長線にある。

東芝は、Si系パワーデバイスで長年の実績を持ち、2024年には300mmウエハー対応の新工場を完成させるなど量産基盤の整備を進めてきた。2023年にJIP(日本産業パートナーズ)主導で非上場化しており、再建プロセスの一環として事業の選択と集中が続く。

三菱電機(6503)は、鉄道牽引、送配電、産業機器向けの高耐圧モジュールやSiCモジュールで強い存在感を持つ。GX(グリーントランスフォーメーション)とDX(デジタルトランスフォーメーション)を支える中核技術としてパワーデバイスを位置づけており、2025年には熊本・泗水でSiCパワーデバイス関連の新工場も完成させた。

3社のシェアを単純に足せば世界11%超と大きな数字になるが、それより重要なのは補完関係だ。ロームのSiCディスクリートと車載、東芝のSi量産と300mm基盤、三菱電機の高耐圧・鉄道・電力インフラが組み合わされば、用途と材料の両面で幅広いポートフォリオが生まれる。自動車一本足でなく、電力インフラ・鉄道・工場・データセンターにも軸足を持てれば、EVや自動車産業の景気変動に対する耐性も高まる。


デンソー主導の「垂直統合案」という別の道

一方で、ロームには別の選択肢がある。自動車部品大手のデンソー(6902)が、ロームへの買収提案を出しているのだ。

デンソーは2024年9月にロームとの戦略提携検討を開始し、2025年5月には基本合意に至った。デンソーの狙いは、EVの電動化・知能化に不可欠なアナログICやパワー半導体の安定確保だ。2026年3月の開示では、ロームの株式取得を含む「様々な戦略オプション」を検討していることを認めている。英フィナンシャル・タイムズは、デンソーがロームに対して総額約80億ドル(約1兆2000億円)規模の買収提案をしたと報じた。

デンソー主導の垂直統合案は、「自動車グループが半導体の供給を囲い込む」発想だ。車載半導体の安定供給を優先しやすいモデルで、東芝・三菱電機との横連合が目指すより広い用途を束ねる再編とは重心が異なる。

ローム社長の東克己氏はこの点について、「今回の3社協議はデンソーの買収提案への対抗策ではない」と述べつつも、「デンソーから買収提案が来たことで、3社のまとまりになった」と明かした。二つの交渉が同時に進行していることは事実で、どちらに向かうかはまだ決まっていない。


なぜロームが鍵を握るのか

今回の産業再編で、ロームが焦点になるのには理由がある。

ロームはSiCで独自の技術的地位を持ち、東芝との製造協業も持ち、デンソーとの戦略提携もある。つまり「日本の横の統合」と「車載系の垂直統合案」の両方から必要とされる位置にいる。ロームの判断が、日本のパワー半導体産業がどちらの設計図で前に出るかを大きく左右するとみられる。

横の統合が進めば、日本の主要プレーヤーが一体で海外大手と競う構図になる。垂直統合案が進めば、車載向けの供給は確保されるかもしれないが、鉄道や電力インフラなど広い用途の競争力を維持できるかどうかは別問題になる。


まとめ

ローム・東芝・三菱電機の3社協議は、単なるシェア拡大の話ではない。EVやデータセンター、再生可能エネルギーなど、社会の電気の流れを根本から制御するパワー半導体という産業で、日本勢が「横に束ねて規模を作るか」「縦に囲い込んで車載安定供給を優先するか」という岐路に立っている。協議はまだ始まったばかりで、どちらの設計図が最終的に選ばれるかは、これからの交渉と経営判断にかかっている。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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