会社法改正の中間試案とは何か——株主総会オンライン化・実質株主の把握・M&A簡素化の3つの見直し

企業統治と資本政策の土台となる会社法の見直しが動き出した。

2026年3月18日、法務大臣の諮問機関である法制審議会の部会が、会社法の見直しに向けた「中間試案」をまとめた。企業の成長促進を目的に打ち出されたこの試案、中身は3つの柱で構成されている。①株主総会を完全にオンラインで開けるようにする、②実質株主(名義株主の背後にいる真の投資家)が誰なのかを企業が把握できる制度を作る、③株式を使ったM&Aを使いやすくする——というものだ。

難しそうに聞こえるが、これらは「日本の会社が投資家と向き合い、機動的に動けるようにする」ための制度整備として一つながりで理解できる。


目次

そもそも「会社法の見直し」ってどういうこと?

会社法とは、株式会社の設立から株主総会の開き方、取締役の権限、企業の合併・買収(M&A)まで、企業運営のあらゆる土台となるルールを定めた法律だ。

税制や会計のルールとは別物で、「会社はどのように意思決定するか」「誰が何を決める権限を持つか」という根幹に関わる。だから会社法が変わると、大企業から中小企業まで幅広く影響が及ぶ可能性がある。

今回まとめられた中間試案は、まだ「検討する方向性を示した段階」だ。ここからパブリックコメント(国民からの意見募集)と部会での追加審議を経て答申がまとめられ、さらに法案化という段階がある。「改正が決まった」ではなく、「見直しの方向性が具体化した」というのが現段階の正確な表現だ。


柱①——株主総会、会場なしで完全オンライン開催へ

まず一つ目の柱が、完全オンラインのみで行う株主総会(バーチャルオンリー総会)の要件緩和だ。

株主総会とは、会社の重要事項を株主が承認する場だ。事業計画の承認、取締役の選任、重要な資産の処分など、会社の方向性を決める年に一度の舞台といえる。

これまで日本では、「会場なし・オンラインのみ」の株主総会は、上場企業が産業競争力強化法という特別な法律の枠組みで、経済産業大臣と法務大臣の確認を受けた場合にのみ認められていた。つまり、ハードルが高い特例だった。

今回の中間試案は、この特例をより広い企業が使えるよう要件を緩和する方向を示した。非上場企業も含め、大臣の確認がなくても開催できるよう検討するという。

企業にとってのメリットは、総会運営コストの削減や、地理的制約を超えた参加のしやすさにある。一方で、高齢株主がオンラインで参加できない問題や、通信障害時の対応、質疑が制限されやすいといった株主権保護の課題は残る。制度を使いやすくすることと、株主が実質的に参加できる権利を守ることの両立が、今後の議論の焦点になる。


柱②——実質株主の把握を可能にする新制度

二つ目は、実質株主の可視化という地味だが重要な改革だ。

株主名簿というのは、会社が「誰が株主か」を把握するための台帳だ。ところが日本では、株主名簿に載っているのが「名義株主」、つまり信託銀行などの名前であることが多い。その背後で実際に株式を保有し、議決権の行使を指図しているのは保険会社や運用会社などの「実質株主」だ。

企業が投資家と対話したい場合、本当は「なぜ今の経営方針でいいのか」「M&Aをどう考えているか」を議決権を持つ投資家本人と話したい。しかし現行の仕組みでは、実質株主が誰なのか、企業から見えにくい構造になっている。

今回の試案では、企業が株主名簿に記載された信託銀行などを通じて、実際に議決権行使を指図している保険会社などの実質株主を確認できる新制度を導入することが盛り込まれた。

この制度が機能すれば、企業が対話すべき相手を把握しやすくなり、機関投資家との対話の質も上がる可能性がある。一方、投資家側からは、保有情報が企業に見えることへの慎重な見方もあり得る。


柱③——株式を使ったM&Aをもっと進めやすく

三つ目の柱は、株式を対価とするM&Aの制度整備だ。

M&Aとは企業の合併・買収のことで、会社が別の会社を買収する場合、対価は現金だけとは限らない。「うちの会社の株式を渡すから、そちらの会社を売ってほしい」という形で、自社株式を対価にして買収する手法がある。現金を大量に用意しなくても大型の再編を進められるため、海外では大規模M&Aで株式対価が活用される例も多い。

日本でも制度自体は存在するが、手続きの複雑さや対象範囲の制約から、使い勝手が十分でないとされてきた。今回の試案では、こうした株式を活用した買収の制度について、活用範囲を拡大し手続きを簡素化する案が盛り込まれた。

M&Aが活性化すれば、事業再編や成長投資が進みやすくなる可能性がある。一方で、買収される側の株主の権利保護や価格の公正性といった論点も常に付きまとう。


なぜ今、この改革が動いているのか

今回の中間試案は突然出てきたものではない。政府全体として進めてきたコーポレートガバナンス改革(企業の経営透明性・効率性を高める取り組み)の延長線上にある。

経済産業省は2025年、企業の成長投資を促す観点から、バーチャルオンリー総会の実現・実質株主情報へのアクセス・株式対価M&Aの拡充を「今後の改正の方向」として示していた。金融庁も2025年のコーポレートガバナンス改革プログラムで、企業と投資家の「建設的な対話」の深化や実質株主の透明性向上を政策課題に掲げていた。

こうした議論の背景には、東証による資本効率改善の要請や、企業と投資家の対話を重視する政策の流れがある。会社法の見直しは、資本市場の変化への制度的な対応という側面も持っている。


まとめ——「閉じた会社」から「機動的な会社」へ

今回の中間試案は、会社法の技術的な修正にとどまらず、株主総会のあり方、投資家との対話、企業再編の進め方を同時に見直す動きだ。企業実務だけでなく、上場企業に投資する個人投資家にとっても、今後の制度変更の方向を知っておく意味は小さくない。

ただし繰り返しになるが、まだ「見直しの方向性が示された段階」であり、最終的な法改正の内容は今後の審議次第だ。パブリックコメントの結果や、株主権保護の観点からの指摘を受けて、内容が修正される可能性もある。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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