2035年に日経平均株価は22万円台もあり得るのか?内閣府試算をもとにした長期推計を読む

「2035年には日経平均株価が22万円台に達する可能性がある」——そんな試算が、専門家のレポートで示された。現在の株価水準と比べると、数倍に達する計算だ。「本当にそんな未来があるのか?」と思う人も多いだろう。

ただし、これは内閣府が「22万円になる」と予言したものではない。内閣府が公表しているのはマクロ経済の前提(成長率・物価・金利)にとどまり、株価そのものは公式試算の対象外だ。「22万円台」という数字は、その前提シナリオを使って民間エコノミストが独自モデルで導いた理論値だ。この区別を押さえたうえで、どのような条件が揃えばそういった水準も視野に入るのかを整理してみたい。


目次

内閣府が示した「3つの日本経済シナリオ」

2026年1月、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」を経済財政諮問会議に提出した。これは今後10年間(2035年度まで)の日本経済と財政の見通しを複数のシナリオで示すもので、将来を断定するものではなく、政策検討の基礎資料として位置づけられている。

この試算では、日本経済の行方を「過去投影ケース」「成長移行ケース」「高成長実現ケース」という3つのシナリオに分けて整理している。シナリオを分ける主なポイントが、TFP(全要素生産性)労働参加率だ。

TFPとは、労働者の数や機械・設備の量だけでは説明できない「効率の改善」や「技術の進歩」を表す指標だ。AI導入や業務効率化などがTFPを高める要因に相当する。TFPが高まれば、同じ人手や設備でもより多くの価値を生み出せるようになる。

各シナリオの概要は以下のとおりだ。

過去投影ケース

現在の傾向が大きく変わらず続く前提に近いシナリオ。TFP上昇率は足元の平均である約0.6%程度で推移する。物価上昇率は中長期的に1%程度、名目長期金利(10年国債利回り)は1%台後半で推移すると見込まれる。経済全体の成長率(名目GDP成長率)は1%程度の緩やかな拡大が続く。

成長移行ケース

賃上げと投資の拡大が引き金となって、成長型経済に移行することを前提にしたシナリオ。TFP上昇率は過去40年平均の約1.1%程度まで高まり、物価は2%程度で安定する。名目長期金利は3%台前半程度へ上昇し、名目GDP成長率は3%程度での成長が中長期的に続く姿となっている。

高成長実現ケース

より強い成長力の回復を想定した、いわば楽観シナリオ。TFP上昇率は1.4%程度まで高まり、名目GDP成長率や長期金利も「成長移行ケース」よりやや高めで推移する。


株価はどうやって推計されたのか

内閣府が示しているのは、あくまでマクロ経済の前提(物価・金利・成長率)だ。そこから日経平均株価の水準を導いたのは、第一生命経済研究所の永濱利廣氏だ(日本FP協会掲載コラムによる)。

永濱氏は「割引キャッシュフローモデル」と呼ばれる手法を応用して推計を行った。このモデルは、本来は企業1社の株式価値を算出するために使われるが、ここでは日本経済全体の株価指数に応用している。

考え方はシンプルだ。企業や経済全体が将来生み出す利益(キャッシュフロー)が大きければ大きいほど、また割引率(金利に相当)が低ければ低いほど、理論上の株価は高くなる。

永濱氏の推計では、名目GDP成長率を将来利益の伸びの代理変数名目長期金利を割引率の代理変数として使用した。過去約21年間(2005〜2025年度)のデータと比較したところ、名目GDP成長率と名目長期金利のみで日経平均株価の動きの9割以上を説明できたという。ただし、これは永濱氏のモデルによる結果であり、公的機関が確認した普遍的な結論ではない。

この関係性をもとに、内閣府が示した各シナリオの数値を代入して、2035年度までの日経平均株価の理論値を計算したわけだ。


シナリオ別の株価試算

推計結果は以下のとおりだ。なお、これらの数値は価格目標ではなく、特定の前提を置いた場合の理論値であり、永濱氏自身も「相当程度の幅を持って見る必要がある」と明記している。

シナリオ2030年時点2035年時点
過去投影ケース7万円台10万円台
成長移行ケース9万円台22万円台
高成長実現ケース9万円台24万円台

最も控えめな「過去投影ケース」でも、2035年時点で10万円台という試算になっている。注目される「22万円台」は、「成長移行ケース」における水準だ。

割引キャッシュフローモデルは、成長率と金利の「差」に非常に敏感な構造を持っている。前提となる成長率や金利がわずかに変わるだけで、理論株価は大きく上下に振れうる点にも留意が必要だ。


インフレの時代に株価はどう変わるか

デフレの時代、つまり物価が下がり続けていた時期は、企業の名目売上が伸びにくく、株価もなかなか上がらなかった。一方、今日本はデフレから脱却しつつある。物価が上がれば、それに伴い企業の名目売上も増えやすく、名目ベースでの企業利益も伸びやすい——これが、今回のシナリオで株価の理論値を押し上げる一つの柱だ。

もっとも、インフレには株価にとっての「追い風」と「向かい風」が同時に存在する。物価上昇は企業の名目売上を押し上げるプラスの面がある一方、インフレに伴う金利上昇は株式のバリュエーション(割安感の評価)を抑える方向にも働く。成長率の上昇と金利上昇の「綱引き」がどのように決着するかが、実際の株価を決める大きなポイントになる。

「成長移行ケース」や「高成長実現ケース」で株価が大きく上昇する試算になっているのは、名目成長率の上昇が金利上昇を上回るという前提を置いているからだ。その前提が崩れれば、結果も大きく変わりうる。「インフレ=必ず株高」でも「金利上昇=必ず株安」でもなく、両者の綱引きとして見ることが基本だ。


この試算から読み取るべきこと

22万円台という数字は印象的だが、それそのものが「なる」「ならない」の話ではなく、日本経済がどのシナリオをたどるか次第だという構造を理解することに、この試算の本来の意義がある。

永濱氏のコラムでも、「日本の株式市場の将来の方向感を示すこと」と「インフレ経済が今後の経済や金融市場に与える意味合いを考えるきっかけにすること」が目的であると述べられている。

確認すべきは株価の予測数字よりも、以下の4点だ。

  • 日本が名目成長を維持できるか(賃上げが続くか)
  • TFPが本当に高まるか(生産性向上が実現するか)
  • 長期金利がどの程度・どのペースで上がるか
  • 企業利益が名目成長に見合って伸びるか

これらが積み重なって初めて、シナリオの数値が現実に近づいていく。試算を「予言」としてではなく、「条件と結果の組み合わせ」として読む姿勢が大切だ。


本稿は、日本FP協会掲載コラム「2035年には日経平均株価が22万円台!?——日経平均株価の長期推計(永濱利廣氏)」および内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(令和8年1月22日)を参照・引用しています。株価の推計数値は永濱利廣氏の独自モデルによるものです。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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