地熱大国なのに進まない日本──中部電力がドイツで学ぶ次世代地熱の現場

「日本は地熱で世界第3位の潜在能力を持っているが、開発は進んでいない」

中部電力の担当者がこう語ったのは、ドイツ南部ミュンヘン郊外の地熱発電所だ。2026年3月、同社はこの発電所を報道陣に公開した。日本の電力会社がわざわざヨーロッパで地熱発電に出資しているのはなぜか。そして、そこで得た技術は本当に日本に持ち帰れるのか。


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従来の地熱発電は「資源探査の不確実性」がある

地熱発電とは、地球内部の熱を使って電気を起こす仕組みだ。再生可能エネルギーの中でも珍しく、天候に左右されず24時間安定して発電できる「ベースロード電源」として注目されている。

ただし、従来の地熱発電には根本的な制約があった。地下に自然に存在する熱水や蒸気を直接くみ上げて使う仕組みのため、それが豊富に得られる場所でしか機能しない。地下の「当たり場所」を探し当てる必要があり、地質調査にも多大なコストと時間がかかる。

実は、今回の発電所があるゲーレッツリートという土地は、従来型の地熱掘削が過去に失敗した場所だ。それでも新たな発電所が稼働できた。ここに、今回の技術のポイントがある。


閉じた配管でループを作り、「当たり外れ」をなくす

今回の発電所で採用されているのは、クローズドループ型地熱と呼ばれる方式だ。カナダのスタートアップ企業・Eavor Technologies(イーバー・テクノロジーズ)が開発した技術で、中部電力はEavorなどと共同出資して商業運転を進めている。

仕組みを大づかみに整理すると、地下深く(この案件では約5,000m)にループ状の配管を設置し、その中で水を循環させる。配管の中の水が地熱で温まって地上に戻ってくる。その熱を取り出して電気や熱供給に使う、というサイクルだ。

従来型との最大の違いは、地下の熱水や蒸気を直接使わない点にある。閉じた配管の中で水を循環させるだけなので、地下に豊富な蒸気がなくても成立する。掘削リスクを大幅に下げながら、従来型では開発できなかった土地でも地熱発電の可能性が広がる。


バイナリー発電:温度が低くても発電できる工夫

もうひとつのポイントがバイナリー発電という方式だ。

地熱で温めた水の温度は、高温の蒸気が出る場所に比べると低めになりがちだ。低い温度でもタービンを回して発電するために、「沸点の低い媒体(液体)」を使う。水よりずっと低い温度で沸騰する液体を地熱で温め、その蒸気でタービンを回す。水を直接蒸気にするより低温でも発電できるため、クローズドループ方式との相性がよい。

この案件の想定規模は、発電容量が約8.2MW、地域への熱供給が約64MWだ。電気だけでなく地域の暖房にも活用する設計で、欧州で広く普及する地域熱供給システムと組み合わせることで事業として成立しやすくなっている。現在は一部営業運転を開始しており、全面運転は2026年後半を見込んでいる。


なぜドイツで実証するのか

「なぜ国内ではなく、ドイツなのか」と思う読者もいるだろう。その答えは、日本の地熱開発が直面してきた構造的な難しさにある。

日本は有数の地熱資源国とされる一方、実用化は限られた地域にとどまってきた。地質調査機関の推計では約2,347万kWに及ぶ資源量があるとされるが、開発が進まない理由は技術不足だけではない。

温泉地の近くに有望な地熱地帯が多く、温泉事業者との調整が不可欠だ。加えて、日本の地熱資源の多くは国立公園や自然保護地域と重なっているため、開発規制の壁もある。さらに、初期掘削に数十億円規模のコストがかかるにもかかわらず、蒸気が十分に出るかどうかは掘ってみるまでわからない、という事業リスクも大きかった。

ドイツでは、再生可能エネルギー普及の追い風があり、地域熱供給の需要も大きい。事業モデルを作りやすい環境で商業案件として実績を積み、その経験と知見を日本に持ち帰る、という戦略だ。


日本で普及するなら、何が鍵になるか

クローズドループ方式は、従来型地熱では開発できなかった土地でも候補地を広げる可能性がある。温泉地や国立公園から離れた場所で地熱が活用できれば、これまで手つかずだった地域への展開が現実的になってくる。電力だけでなく熱利用まで組み合わせた事業設計が成立すれば、採算性の面でも選択肢が広がる。

ただし、技術の可能性と国内普及は別問題だ。温泉事業者や地域住民との調整、許認可手続き、掘削コストの回収といった課題はそのまま残る。地熱が進まなかった理由の多くは技術の問題ではなく、制度・地域・事業性の複合問題だからだ。新しい技術が加わっても、これらの壁が自動的に解消されるわけではない。


まとめ:日本の地熱に「新しい選択肢」が加わった

今回のニュースを一言でまとめるなら、「日本の地熱問題が解決した」ではなく、「日本の地熱に新しい選択肢が1つ増えた」だ。

海外報道もゲーレッツリートを「試金石」と位置づけ、普及の可否はスケール化の検証次第と見る。中部電力がドイツで実地学習しているのは、豊富な資源を持ちながら開発が進まない日本の現状を変えるための布石だろう。その技術を活かせるかどうかは、発電所の運転実績が積み上がるのと同時に、国内の制度・地域との調整がどこまで前進するかにかかっている。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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