「われわれは必ず報復する」。
3月12日、イランの国営テレビが読み上げた声明は、この一言に凝縮される。アメリカとイスラエルによる軍事作戦が始まってから約2週間、新しい最高指導者に選ばれたモジタバ・ハメネイ師の「初めての声明」が、世界に向けて発信された。
モジタバ師とは誰か
イランの政治体制は日本のそれとは大きく異なる。選挙で選ばれる大統領よりも上に、「最高指導者」と呼ばれるポストが存在する。軍・革命防衛隊・外交・安全保障の最終判断に強い影響力を持ち、事実上の国家最高権力者だ。
前最高指導者のアリー・ハメネイ師は、今回のアメリカとイスラエルによる軍事作戦で殺害された。その後継者として選ばれたのが、ハメネイ師の次男であるモジタバ・ハメネイ師だ。
今回発表されたのは、モジタバ師として就任後「初めての公式声明」にあたる。ただし、本人が直接映像に登場したわけではなく、国営テレビのアナウンサーが声明文を読み上げる形だった。トランプ大統領はインタビューで「おそらく生きているが、傷を負っているだろう」と述べており、公の場に姿を見せない背景について、負傷している可能性や、居場所を特定されることへの警戒が指摘されている。
声明の3つの柱
声明の内容は、大きく3つのメッセージに整理できる。
第一に、徹底抗戦の宣言だ。「この地域のアメリカ軍基地は即時に閉鎖されるべきであり、攻撃されるだろう」として、攻撃を続けるアメリカとイスラエルへの抵抗を続けることを強調した。先月28日にイラン南部の小学校が攻撃を受け、児童など160人以上が死亡したとされることについては「必ず報復する」としている(被害はイラン側の発表に基づく)。
第二に、ホルムズ海峡の封鎖継続だ。声明ではホルムズ海峡の閉鎖を続ける意思を明言しているとされ、封鎖を圧力手段として維持する意思を示した。
第三に、新たな戦線の拡大示唆だ。周辺地域での新たな攻撃戦線を開く可能性にも言及したとされており、日本エネルギー経済研究所の遠藤健太郎主任研究員は「声明の作成に革命防衛隊が関わっている雰囲気を感じる。一人では判断できないことだ」と指摘している。
このニュースの本質は、イランの新指導者の強硬姿勢そのものより、ホルムズ海峡リスクが再び「世界のインフレ要因」として浮上している点にある。ホルムズ海峡は世界の石油供給の約5分の1が通過する要衝で、ここが封鎖・半封鎖状態になるだけで、原油価格・ガソリン・電気代・物価全体に影響が及ぶ。日本も、中東依存が高い石油・LNG(液化天然ガス)の調達を通じて、この動きと無縁ではない。
「封鎖する」「封鎖しない」──矛盾するメッセージ
ここで見落としてはならない重要な点がある。
モジタバ師の声明が「封鎖継続」を訴えた同じ3月12日、イランの国連大使は「イランはホルムズ海峡を閉鎖しない」と述べたと、ロイターが報じている。
国内向けの強硬メッセージと、国際社会向けの外交シグナルが食い違っている状態だ。これはイランが「軍事的圧力は最大化しつつ、世界全体を完全に敵に回す一線はまだ越えていない」という綱渡りをしている可能性を示唆する。ロイター・APなど大手通信社は「戦争は長期化・拡大の方向」と整理しつつも、「外交的な逃げ道が完全に消えたわけではない」という視点も含めて伝えている。
トランプ大統領の「さらなる攻撃示唆」
一方のアメリカでは、トランプ大統領が3月13日、SNSで激しい言葉でイランを非難しながら「今日、何が起こるか見ていてほしい」と投稿し、追加攻撃を示唆した。
イスラエル軍はこの日、過去24時間でイラン中部・西部を計20回大規模空爆し、弾道ミサイル発射装置や武器製造施設など200以上の標的を攻撃したと発表した。南部シラーズでは地下施設への攻撃も行ったとしている。
CNNは、イギリス軍の基地で撮影されたアメリカ軍のB1爆撃機に、地下深くの施設を破壊するための特殊爆弾「バンカーバスター」が搭載されているのを映像から確認したと報じている。これはイランの地中深い施設への攻撃準備が整いつつある可能性を示す材料として報じられているが、公式発表ではなく映像分析に基づく内容だ。
なおイランでは、この日がイスラム教の断食月ラマダンの最後の金曜日「エルサレムの日」にあたり、各地で反米・反イスラエルのデモが行われた。デモの最中にテヘランでも攻撃があり、1人が死亡したとイランメディアが伝えている。
戦火が広がる周辺国
今回の軍事作戦の影響は、イランの国境を超えて周辺地域に波及している。
米欧軍への攻撃では、イラクでフランス軍の駐留施設がドローン攻撃を受け、兵士1人が死亡した。イタリア軍の拠点への攻撃も確認されている。トルコでは、イランから飛来した弾道ミサイルをNATOの部隊が3回目の迎撃を行ったとトルコ国防省が発表した。
湾岸インフラ・航路リスクでは、オマーン北部に無人機2機が落ち、外国人2人が死亡。UAE(アラブ首長国連邦)のドバイでは迎撃による破片が建物に当たった。サウジアラビアは首都リヤド各地で無人機を迎撃したと発表した。
戦線拡大では、レバノンでイランが支援するヒズボラとイスラエルとの交戦が激化し、12日までに687人が死亡、1774人がけが、81万人以上が避難を余儀なくされているとされる(レバノン当局発表)。また、作戦に参加していたアメリカ軍のKC135空中給油機がイラク西部で墜落し、6人のうち4人の死亡が確認された。アメリカ軍は「敵の攻撃や誤射ではない」と述べているが、ロイターはイラン寄りのイラク武装勢力が撃墜を主張したとも報じており、原因についての情報は現時点で一致していない。
なぜ世界は動揺しているのか──ホルムズ海峡と「5分の1」
今回の紛争が欧州・アジア諸国の政府を緊張させているのは、軍事的な影響だけではない。ホルムズ海峡というエネルギーの大動脈が揺れているからだ。
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾(イランの南側の海)と外洋を結ぶ幅約50キロの水路で、世界全体の石油供給の約5分の1がここを通過するとされる。中東産の石油・天然ガスを日本・中国・韓国・欧州などに届けるルートの要であり、ここが封鎖・半封鎖状態になるだけで、原油価格、ガソリン・電気代、物価全体に影響が及ぶ。
ASEAN(東南アジア諸国連合)は3月13日にオンラインで緊急外相会議を開き、「エネルギー供給と海上貿易ルートの維持が重要」と声明を発表した。エネルギーを中東に大きく依存する東南アジア各国にとっても、この紛争は遠い話ではない。
日本も例外ではなく、中東依存が高い石油・LNG(液化天然ガス)の調達が影響を受けると、電気代やガソリン価格の上昇圧力につながる可能性がある。
「局地戦」ではなく「地域戦」へ──現時点の整理
開戦からおよそ2週間が経過し、戦況は次のように整理できる。
イランは新最高指導者のもとで徹底抗戦の方針を示し、革命防衛隊は各地への攻撃を続けている。イスラエル・アメリカ側はさらなる大規模攻撃の準備を進めているとみられ、トランプ大統領は強硬な姿勢を維持している。
一方、イランが海峡完全封鎖に踏み切るかどうか、周辺の湾岸諸国がどこまで安定を保てるかは、まだ流動的な状況だ。遠藤主任研究員は「イランが世界のエネルギー経済に圧力をかけ続けるという意思表示は明確だ」としながらも、イラン国連大使の「封鎖しない」発言が残っている点も踏まえ、現時点では断定できない要素が多く残っている。
今後の焦点は3点だ。①ホルムズ海峡の実効封鎖が続くか、②米軍基地や湾岸施設への攻撃がさらに拡大するか、③アメリカが地下施設への本格攻撃に踏み切るか。この3点の動向が、紛争の規模と長さを左右することになる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

