再犯した人は4割超──検察が「保護観察」を増やそうとする理由

刑法犯で検挙された人のうち、過去にも検挙歴のある人が占める割合(再犯者率)は、46.2%にのぼる(2024年)。検挙者のおよそ半数が、かつても罪で検挙されたことのある「再犯者」だという現実がある。

最高検察庁は、この状況も背景に、全国の検察に対してある通知を出した。「保護観察付き」の判決を、これまでよりも積極的に求めるように、というものだ。刑事司法の世界に詳しくない人にとっては、「保護観察って何?」というところから始まる話かもしれない。だがこの通知は、「社会の中で立ち直りをどう支えるか」という、私たちの社会全体に関わる問いに接続している。


目次

「執行猶予」と「保護観察」は何が違うのか

まず制度の基本から整理しよう。

裁判で有罪になると、通常は刑の執行が始まる。拘禁刑(旧・懲役/禁錮)であれば刑務所に入ることになる。しかし、初犯であることや情状が考慮された場合など、一定の条件のもとで「執行猶予」が付くことがある。執行猶予とは、刑を言い渡しはするが、一定期間(1年以上5年以下)その執行を「猶予する」制度だ。

そして、執行猶予の期間を取り消されることなく経過したときは、刑法上は「刑の言渡しは効力を失う」とされる(刑法27条)。

執行猶予には、そのままの形と、「保護観察付き執行猶予」の二種類がある。後者は、猶予に加えて、執行猶予期間中に「保護観察」という指導・支援の枠組みが付く。保護観察のもとでは、保護観察官(国家公務員)と保護司(地域のボランティア)が、定期的に面会や報告を求めながら、本人の立ち直りを支援する。

ひと言で言えば、通常の執行猶予が「猶予して見守る」だとすれば、保護観察付きは「猶予しながら、介入して立て直す」設計に近い。


「全部執行猶予」になりそうな人に、より手厚く

今回の通知が対象として想定しているのは、「(被告人について)言い渡される刑の全部が執行猶予となる見込み」の事案だ。

※ここでいう「刑のすべて」は、「すべての事件が執行猶予になる」という意味ではない。
「刑の全部が猶予される(全部執行猶予)」か、「一部は執行される(一部執行猶予)」か、という区別の文脈で使われている。

執行猶予には「全部執行猶予」と「一部執行猶予」の区別がある。全部執行猶予は、言い渡された刑の執行が丸ごと猶予されるケース。一部執行猶予は、一部は実際に刑が執行され、残りが猶予されるケースだ。

今回の通知が念頭に置くのは前者──つまり、社会に戻って更生を図ることが前提の設計で裁判が進みそうな事案に、保護観察を必要に応じて付けていこう、という方向性だ。「刑務所には入らないが、野放しにもしない」という形を増やす試みとも言える。


薬物だけでなく、窃盗・暴行でも

これまでも保護観察付き判決が活用されてきた分野がある。薬物事犯がその典型だ。依存性のある薬物に関わった人が、社会で更生するためには継続的な支援が必要だという認識が早くから広まっていた。

今回の通知が踏み込んだのは、その対象の広がりだ。通知は、窃盗や暴行などの事件も念頭に、再犯防止に資すると考えられる場合には、捜査段階から「保護観察の必要性を判断できる材料」を集め、裁判で適切に立証するよう求めている。

生活基盤の不安定さ、衝動のコントロールの難しさ、孤立、依存や嗜癖の問題──そういった背景を抱えた人が罪を犯すケースは珍しくない。刑事手続きが終わった後に何の支援もなければ、同じ状況に戻って同じことを繰り返す。46.2%という再犯者率の数字は、その現実を映している。


なぜ「検察の通知」で変わるのか

保護観察を付けるかどうかを決めるのは、検察ではなく裁判所だ。それなのに、なぜ検察の方針が変わることで状況が変わるのか。

答えは、「裁判所が判断するための材料を整えるのが検察の役割」にある。

裁判所が保護観察の必要性を認めるためには、「この被告人にはなぜ保護観察が必要か」「どんなリスクがあるか」「どんな支援が効果的か」を具体的に示す必要がある。それを捜査段階から集め、法廷で説得的に主張するのが検察の仕事だ。逆に言えば、そうした材料が揃わなければ、裁判所が保護観察を付けることも難しくなる。

今回の通知は、求刑の段階で口頭で言うだけでなく、捜査の段階から必要な材料を集め、きちんと立証できるようにする、という方針の転換だ。


「再び猶予を」が可能になった法改正も背景に

この通知には、もう一つの背景がある。執行猶予制度などを含む改正刑法は2022年(令和4年)に成立し、2025年6月1日に施行された。

改正のポイントの一つは、再度の執行猶予(いわゆる“二度目の全部執行猶予”)の対象が広がったことだ。言い渡される拘禁刑の上限が「1年以下」から「2年以下」に拡大された。

そしてもう一つが、今回の記事文脈に直結する部分である。改正前は、保護観察付き執行猶予の期間中に再犯した場合、再度の執行猶予が法律上できない扱いになりやすく、結果として実刑に結びつきやすかった。改正後は、条件はあるものの、最初の保護観察付き執行猶予中の再犯でも、1度に限り再度の執行猶予が可能となる余地が広がった(ただし、再度の執行猶予により保護観察が付された場合に、その期間内にさらに罪を犯した者は除外される、という形で線引きが置かれている)。

この改正は、「一度失敗しても、社会内での更生のチャンスを与える」方向への制度設計を示している。今回の検察の通知は、この趣旨を踏まえ、制度をより積極的に活用していく姿勢として読み取ることができる。


課題は「担い手」の不足

制度を動かす側には、懸念もある。

専門家が指摘するのは、保護観察の実効性は「体制」が支えるという点だ。保護観察官は国家公務員だが、その数には限りがある。そして日本の保護観察制度を長年支えてきた保護司は、減少・高齢化が課題として指摘されてきた。

保護司は地域のボランティアで、対象者と定期的に面会し、生活状況の確認や相談に応じる役割を担う。保護観察の対象者が増えれば、支える側の負担はさらに増す。「制度を使う」ことと「制度を支える体制を整える」ことは、セットで考えなければならない問いだ。


「社会で更生する」仕組みを、誰が支えるか

今回の検察の動きは、数字が示す問題意識から始まっている。再犯者率46.2%。そして、社会内処遇としての保護観察が「必要なところで適切に機能しているか」を問い直す動きでもある。

制度を動かすことはできる。しかし実際に人が立ち直る場面は、法廷でもなく検察庁でもなく、日々の生活の中にある。その場面を支える保護司や支援機関、そして地域の受け皿が整うかどうかが、この方針の実効性を左右する。

罪を犯した人を「社会で更生させる」という営みは、制度の問題であると同時に、社会全体の問いでもある。


本記事は2026年2月24日時点の報道・公表資料に基づいています。制度の適用は個別事案により異なります。

参考(公表資料・一次情報)

  • 再犯者率(刑法犯検挙者中):日本財団(犯罪白書ベースの整理)
  • 再犯防止推進白書(概要・統計):法務省
  • 改正刑法の成立日・公布日・施行日:法務省(法案ページ)
  • 改正点(再度の執行猶予・保護観察付執行猶予):解説(弁護士解説)
  • 保護司の減少・高齢化(論点整理):参議院「立法と調査」
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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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