乗り継いでも、日本へ——ロシア人訪日客が2025年に倍増した3つの理由

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「ほぼ倍増」という驚きの数字

2025年、日本を訪れたロシア人旅行者の数が、前年比でほぼ倍増した——。

観光業界の統計を追っていると、こんな数字が目に飛び込んでくることがある。日本政府観光局(JNTO)のデータによれば、2025年のロシアからの訪日客数は194,900人。これは2024年(99,264人)の約2倍であり、さらにコロナ禍前の2019年(120,043人)をも大幅に上回る水準だ。

なぜ、この時期にロシア人観光客がこれほど増えているのか。その背景には、単純な「観光人気の上昇」では説明しきれない、複合的な事情がある。


数字が語る「3段階の物語」

まず、3つの年度を並べると、何が起きたかの輪郭が見えてくる。

訪日ロシア人数
2019年(コロナ前)120,043人
2024年99,264人
2025年194,900人

2019年から2024年にかけて、数字は2019年水準に届かないまま推移した。コロナ禍の影響に加え、2022年のウクライナ侵攻以降の国際情勢も重なり、ロシアからの訪日客は回復途上のままだった。

ところが2025年、この数字が一気に上振れする。前年比で+96.3%——約2倍の伸びだ。「回復」というより「急上昇」に近い動きといえる。


春と秋、2つの山がある

月ごとの動きを見ると、訪日ロシア人には明確な「季節のリズム」がある。春(3〜5月)と秋(10〜11月)の2回、ピークが訪れる傾向だ。

2025年は特に秋の伸びが際立った。10月に30,053人、11月に27,397人と、月次では最大規模の数字を記録している。

この季節性は、気候や長期休暇のタイミングなど複数の要因が絡んでいると考えられるが、具体的な要因については不明な部分も多い。


なぜ増えたのか——3つの層で読み解く

① 「行けない場所が増えた」から、日本が選ばれた

2022年のウクライナ侵攻以降、ロシアと欧州の間では航空便の大幅な制限が続いている。多くの欧州諸国がロシア便を受け入れなくなり、ロシア人が気軽に旅行できる先が物理的に狭まった。

その結果として起きているのが、「行ける先への需要の集中」だ。アジア圏、とりわけ日本は、この「代替先」として選ばれやすい立場にある。「日本が好きだから行く」だけでなく、「行ける選択肢として日本がある」という構図が、流入を後押ししているとみられる。

② ビザの手続きが「回りやすく」なった

ロシア国籍の方が日本を訪れる場合、査証(ビザ)の取得が必要だ。多くの国が査証なしで入国できる「査証免除」の対象に含まれていないため、申請という手間が発生する。

報道によれば、日本側のビザ手続きが近年簡素化され、申請から取得までの流れが以前より円滑になったとされている(提出要件の緩和、処理の迅速化など)。この「手続きの摩擦が下がった」ことが、旅行を検討する際の心理的なハードルを下げた可能性がある。

なお、日本のビザ申請にかかる費用については、領事手数料は無料でも、申請代行センターを通じる場合はサービス料が別途発生するなど、仕組みがやや複雑だ。費用の詳細については公式情報を確認する必要がある。

③ 「割安感」と「乗り継ぎで行ける」環境

円安が続く日本は、外国人旅行者にとって相対的に物価が安く感じやすい状況にある。ロシア人旅行者にとっても、日本の宿泊費や飲食費が「手頃」に映りやすい局面が続いてきた。

また、ロシアから日本への直行便は現在ほぼ運航されていないが、中国などを経由した乗り継ぎルートが現実的な選択肢として機能している。移動の手間は増えるものの、「それでも行く」価値があると判断できる層が増えているとみられる。


知っておきたい基礎知識

JNTOの「訪日外客数」とは

日本政府観光局(JNTO)が発表する「訪日外客数」は、入国管理の統計などをもとにした推計値だ。観光目的だけに限定した人数ではなく、ビジネスや留学なども含む幅広い「入国者数」に近い数字であることは押さえておきたい。

「倍増」に見える数字の読み方——ベース効果

伸び率が大きいからといって、その市場が”大きい”とは限らない。今回のロシアのケースでも、約195,000人という絶対数は、同年の韓国(1,000万人規模)や中国(数百万人規模)と比べれば、桁が違う規模だ。

これを「ベース効果」という。もともとの数(母数)が小さい市場では、少しの増加でも伸び率が大きく見える。ロシアはまさにこのパターンであり、「伸び率は大きいが、規模は依然として小さい市場」という両面を合わせて読む必要がある。

旅行者の流れを決める3つの条件

国ごとの旅行者数は、①直行便の有無、②ビザの要否、③決済環境(クレジットカードや現金の使いやすさ)に大きく左右される。この3点がそろって初めて「行ける」になる。逆に言えば、どれか一つが欠けても旅行者は集まりにくい。

ロシアの場合、①の直行便は制限されたままだ。③の決済環境については、ロシア発行カードの海外利用には制約が残るとも報じられており、現金対応や個別の事情が実態を左右している面がある。それでも②のビザ手続きの円滑化と、為替面の割安感・乗り継ぎルートの現実化が、増加を後押ししているとみられる。


小さな市場の「大きな変化」が示すもの

訪日ロシア人の急増は、観光統計のなかでは「規模の小さな話」かもしれない。しかし、その背景には、ウクライナ侵攻という地政学的な変化、ビザ手続きという制度的な要因、円安という経済的な条件が複雑に絡み合っている。

「なぜこの国からの旅行者が増えているのか」を問い始めると、世界の動きが見えてくる。訪日ロシア人の増加は、純粋な「日本人気」の上昇というより、国際環境の制約が作り出した需要——地政学・制度・為替が重なった結果——として読み解くべき数字だ。小さな市場の変化が、大きな時代の動きを映し出している。


本稿はJNTOの公開データおよび各種報道をもとに構成しています。統計の定義・集計方法の詳細はJNTO公式サイトをご参照ください。ビザ手続きの詳細や費用は変更される場合があります。

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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