法人企業景気予測調査とは? — 基礎知識と主要用語の解説
この記事で紹介する「法人企業景気予測調査」は、内閣府と財務省が四半期ごとに実施している、企業の景気動向や経済活動の現状および将来の見通しを把握するための重要な統計調査です。全国のさまざまな規模・業種の企業から回答を集め、経済全体の動きを分析・予測しています。
調査の目的と対象
この調査は、日本経済の主要な柱である法人企業の経営状況や景況感、設備投資や雇用状況、収益動向などを定期的に確認し、政策立案や経済分析に役立てることを目的としています。資本金の規模に応じて「大企業」「中堅企業」「中小企業」に分類し、幅広い業種を対象にしています。
よく出てくる用語の解説
BSI(Business Survey Index)
BSIは「企業の景況感」を数値化した指標で、「景気の良し悪し」を示します。企業に「景況が上昇しているか」「変わらないか」「下降しているか」を尋ね、上昇と回答した企業の割合から下降と回答した割合を引いた差分を%ポイントで表します。
- プラスのBSI=景気が良い(上昇超)
- マイナスのBSI=景気が悪い(下降超)
BSIは「貴社の景況判断」だけでなく、「国内の景況判断」や「従業員数判断」など複数の分野で使われ、景気の動向を多角的に捉えます。
景況判断
企業自身の現在の経営状況や将来の見通しに対する評価です。調査では、企業が自社の売上や利益、受注状況などを踏まえた景況感を回答します。景況判断BSIはこれらの評価を数値化したものです。
従業員数判断BSI
企業が「人手が不足しているか」「適切か」「過剰か」を評価し、数値化した指標です。人手不足感の強さや雇用の伸び縮みを把握するために重要な指標となっています。
設備投資
企業が生産や販売活動を行うための設備(工場や機械、ソフトウェアなど)に対して行う投資のことです。設備投資の動向は経済の成長性や将来の生産力の拡大を示す重要な先行指標です。
資金調達方法
企業が事業活動や投資に必要な資金をどのように調達しているかを示します。主に「内部資金(自社の利益や貯蓄)」「民間金融機関からの借入」「リース」などの手段があります。資金調達の状況は企業の経営基盤の健全性や成長戦略を読み解く手がかりになります。
まとめ
この調査は、企業の景況感や経営環境の変化を定量的に示すものであり、景気の動向や経済政策の効果を評価するうえで重要な役割を果たします。特にBSIは、企業の実感に基づく景況感を簡潔に表現するため、経済分析や報道で広く利用されています。
この後の記事では、令和7年4~6月期の最新調査結果の詳細を解説していきますが、まずはこの調査がどのようなものか理解したうえでお読みいただければ、内容の理解が深まるでしょう。
法人企業景気予測調査(令和7年4~6月期)の概要解説
1. 企業の景況判断
◆ 「貴社の景況判断」BSI

◆ 寄与の大きい業種(大企業)

令和7年4~6月期の企業景況感を示すBSI(Business Survey Index)は、大企業、中堅企業、中小企業いずれも「下降超」となりました。特に大企業は▲1.9ポイントと、約1年半ぶりに景況感が悪化しています。
しかし、見通しでは大企業と中堅企業は7~9月期に「上昇超」へ転じる見込みです。一方で中小企業は7~9月期も引き続き「下降超」が続く予想となっています。
製造業や非製造業でBSIの変動に大きく寄与したのは、製造業では石油製品や自動車関連、非製造業ではサービス業や運輸業でした。例えば、石油製品製造業はBSIが大きく上昇した一方、自動車製造業は大きく低下しています。
2. 国内の景況
◆「国内の景況判断」BSI

国内の景況判断BSIも全産業でマイナスとなり、大企業で▲6.2ポイントと令和5年1~3月期以来、9期ぶりの悪化となりました。中堅・中小企業も同様に景況感の悪化が続いています。
見通しでは大企業は10~12月期に回復へ転じると期待されていますが、中堅・中小企業は依然として厳しい状況が続く見込みです。
3. 雇用の状況
◆「従業員数判断」BSI

雇用面では、令和7年6月末時点で大企業の「従業員数判断」BSIは26.9ポイントと「不足気味」が56期連続で続いています。中堅・中小企業も同様に人手不足感が強く、今後もこの傾向は続く見込みです。
つまり、多くの企業で人材確保が依然として難しい状況にあることを示しています。
4. 企業収益の見通し
◆企業収益

◆ 寄与の大きい業種(全規模)

令和7年度の売上高は全体で約2.1%増加が見込まれています。製造業、非製造業ともに増収予想です。
一方、経常利益は約2.1%の減少が予想されています。製造業、非製造業ともに減益見込みで、特に自動車産業などで利益が圧迫される傾向が強いです。
5. 設備投資の状況
◆ 生産・販売などのための設備(BSI)

◆ 設備投資額(ソフトウェア投資額を含む、土地購入額を除く)

◆ 寄与の大きい業種(全規模)

生産・販売用の設備に関しては、全企業規模で不足感が強く、6月末時点で大企業、中堅企業、中小企業ともに設備不足の状況にあります。今後も設備不足が続くと予想されています。
設備投資額は令和7年度に前年比約7.3%増加する見込みで、製造業、非製造業ともに増加が期待されています。特に自動車製造業や化学工業、金融業、郵便運輸業などで設備投資が活発化するとみられています。
6. 設備投資の目的

設備投資における目的としては、大企業・中堅企業・中小企業すべてで「維持更新」が最重要とされ、その次に「省力化合理化」、「生産(販売)能力の拡大」が続きます。品質向上や情報化対応も重要視されています。
7. 資金調達の状況

資金調達方法では、大企業は「内部資金」が最も重要視されており、次いで「民間金融機関」からの調達が続きます。中堅企業も内部資金が最優先ですが、中小企業は「民間金融機関」からの調達が最も重視されています。
まとめ
- 現状では大企業、中堅企業、中小企業とも景況感が悪化していますが、大企業と中堅企業は今後回復が期待されています。
- 人手不足は深刻で、継続的な課題となっています。
- 売上は増加見込みも利益は減少予想であり、収益環境は厳しさを増しています。
- 設備投資は増加傾向であり、維持更新や合理化を目的とした投資が中心です。
- 資金調達は企業規模により重視される方法に差があり、中小企業の資金調達環境は厳しい状況が続いています。
この調査は企業活動の現状と将来の見通しを総合的に把握するために四半期ごとに実施されており、経済全体の動向を知るうえで重要な指標となっています。
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【外部関連リンク】
- 日本銀行(BOJ)公式サイト ─ 国内金利や政策決定の確認に。
- 米連邦準備制度理事会(FRB)公式サイト ─ FOMCや声明内容はこちら。
- Bloomberg(ブルームバーグ日本版) ─ 世界の金融・経済ニュースを網羅。
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