トランプ大統領演説で、USスチール買収で日鉄を「素晴らしいパートナー」と称賛も正式承認は言及せず

USスチール買収巡るトランプ大統領の演説概要

2025年5月30日、アメリカ・ペンシルベニア州のUSスチール製鉄所にてトランプ米大統領が演説を行った。トランプ氏は、日本製鉄が米鉄鋼大手USスチールの買収を目指す計画について、「素晴らしいパートナーを得ることになる」と述べた。日本製鉄は今後140億ドル(約1兆9000億円)を投資すると約束しており、トランプ氏はこの規模の投資を「ペンシルベニア州で史上最大の投資」であり、「鉄鋼産業史上最大の投資」と評価した。

一方で、買収計画の正式承認については演説の中で具体的な言及はなかった。トランプ氏はUSスチールが「アメリカにコントロールされ続けることが最も重要」と強調し、アメリカ企業としての存続を保証する「画期的な合意」を祝福する姿勢を示した。


トランプ大統領による関税引き上げ表明

同演説の中でトランプ大統領は、アメリカに輸入される鉄鋼製品に対する追加関税を現在の25%から50%に引き上げる考えを表明した。これにより、米国内の鉄鋼業界を一層保護し、雇用の拡大を図る狙いであると述べている。関税引き上げは、米製鉄業の競争力維持と強化を目的とした政策の一環と位置付けられている。


USスチール労働組合(USW)会長の声明

これに対して、全米鉄鋼労働組合(USW)のデービッド・マッコール会長は30日、「USスチールと日本製鉄、トランプ政権が関与する議論には参加しておらず、相談も受けていない」と声明を発表した。会長は、政府が付与を検討している「黄金株」についての憶測に言及しながらも、その意味については推測できないと述べている。USWはこれまで日鉄によるUSスチール買収に批判的な立場を取っている。


USスチール経営陣・地元議員・日鉄副会長の見解

USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は、トランプ大統領がパートナーシップを承認したことを歓迎し、「最適なリーダーシップとパートナーのもとで、より良く大きな企業をつくり上げる準備ができている」と述べた。

また、ペンシルベニア州選出のダン・ミューザー下院議員も「USスチールが米国企業であり続けるための偉大なパートナーシップだ」と支持の意を示した。

一方、日本製鉄の森高弘副会長兼副社長は、USスチールとのパートナーシップが「次世代の鉄鋼生産に向けたゲームチェンジャーになる」と述べ、今後巨額の投資を行い、ペンシルベニア州の製鉄所の維持・再活性化を図る方針を示した。


買収計画のこれまでの経緯と焦点

日本製鉄がUSスチール買収計画を発表したのは2023年12月のことだ。しかし、バイデン前政権は国家安全保障上の懸念から、2025年1月に買収を禁止する命令を出し、買収実現は困難な状況となった。

トランプ大統領の就任後、買収計画は再審査されることとなり、同氏は2025年2月の石破総理大臣との会談後に買収ではなく巨額投資による合意の可能性を示唆した。以降、両社は交渉を継続し、トランプ大統領も今年5月に日鉄とUSスチールのパートナーシップを承認する意向をSNSで明らかにしている。

しかし、買収に伴う具体的な条件や経営関与の枠組み、株式取得比率などの詳細は未だ明らかにされておらず、完全子会社化を目指す日本製鉄と、アメリカ支配の継続を求める米政府との間で調整が続いている。


日本製鉄の完全子会社化を目指す理由

日本製鉄がUSスチールの完全子会社化を志向するのは、迅速な意思決定の実現と、巨額の投資を円滑に進める環境を整えるためである。また、機密性の高い独自技術の流出リスクを避けるためにも完全支配を望んでいる。

特に、電気自動車やハイブリッド車のモーター向けに必要な高付加価値製品の分野で日本製鉄は強みを持ち、これをUSスチールへ移転することで競争力を強化しようとしている。

日本製鉄の今井正社長は、「出資にはリターンが必要であり、完全子会社化が交渉の出発点である」と述べている。


買収承認の不確定要素と今後の展望

トランプ大統領は演説で買収の正式承認には言及しなかったものの、米国内でのコントロール継続を強調し、何らかの経営関与や条件を盛り込んだ合意がなされた可能性が高いと見られている。

日鉄側は完全子会社化を前提としつつも、交渉での調整を進めており、今後も買収実現に向けて具体的な条件を詰める作業が続く見込みだ。

ホワイトハウスは声明で、140億ドルの投資が少なくとも7万人の雇用を創出し、数十年にわたり米国での鉄鋼生産を保証するものと説明している。

今後の焦点は、買収に伴うアメリカ側の経営関与の詳細と、日鉄がどの程度の株式取得を認められるかに移る。

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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