1. 概要
2025年5月30日、ワシントンで開催された日米間の4回目となる関税交渉が行われました。この閣僚級交渉では、両国がこれまでの協議を踏まえ、合意に向けた議論が着実に進展していることが確認されました。特に、6月中旬にカナダで開催される主要7か国首脳会議(G7サミット)を前に、再び閣僚級の協議を実施することで日米両政府が一致した点が大きな成果となっています。
交渉を終えた赤澤亮正経済財政・再生担当大臣は、記者団に対し今回の協議内容や今後の見通しについて説明しました。赤澤大臣は、これまでの交渉で双方の立場を深く理解し合い、合意に向けた建設的な議論が進んでいることを強調しました。また、国益を守りつつ早期の合意を目指す姿勢を改めて示し、G7サミットを重要な節目と位置づけて今後の交渉加速に全力を尽くす考えを述べました。
2. 閣僚級交渉の経緯と内容
2025年5月30日、赤澤亮正経済財政・再生担当大臣はワシントンで、ベッセント米財務長官およびラトニック米商務長官と約130分にわたり閣僚級の関税交渉を行いました。この協議は、日米双方が貿易問題を中心に意見を交換し、具体的な課題解決に向けた歩み寄りを探る重要な場となりました。
なお、今回の交渉には米通商代表部(USTR)のグリア代表は参加しませんでしたが、6月上旬にパリで開催予定の経済協力開発機構(OECD)閣僚会合の場を活用し、同代表との協議を模索していることが明らかになっています。
これまでに計4回にわたって実施されてきた日米関税交渉は、双方が相手国の立場や主張を深く理解する過程として機能してきました。こうした積み重ねにより、今回の協議では互いの立場を十分に認識し合いながら、具体的な合意に向けて議論が着実に進展しているとの認識が共有されました。これを踏まえ、両国は今後の交渉を加速させる方針を固めています。
3. 日本側の主張
日本側は今回の交渉において、アメリカが課している一連の関税措置の見直しを強く求める姿勢を一貫して維持しました。特に、自動車および自動車部品に対して課されている25%の追加関税については、「遺憾」の意を表明し、その完全撤廃を強く要求しています。
日本政府は、関税の一部容認や段階的な引き下げを認める考えはなく、関税撤廃を交渉の前提条件として掲げています。この立場に変わりはなく、関税が撤廃されない限り合意の成立は困難であるとの厳格な態度を示しています。
一方で、赤澤経済再生相は、交渉を進めるうえで「国益を損なうことなく、双方にとって利益となる早期の合意を目指す」というスタンスを強調しました。これは、単に急いで合意を目指すのではなく、日本の経済的利益を守りつつ慎重に協議を進める姿勢を意味しています。こうしたバランスを保ちながら、日本側は引き続き交渉に臨む方針です。
4. 米国側の反応と交渉の現状
米国側は、今回の日米関税交渉について、米財務省が「率直かつ建設的な議論が行われている」と評価しています。こうした前向きな姿勢は、両国が合意に向けて真剣に取り組んでいることを示しています。
ベッセント米財務長官は交渉の中で、関税や非関税障壁の問題への対応に加え、両国間の投資拡大の必要性、そして経済安全保障の重要性について強調しました。これらは、単なる関税問題にとどまらず、広範な経済関係の深化を視野に入れた議論であることを示しています。
また、日本側の質問に対しては、トランプ大統領とベッセント財務長官、ラトニック商務長官が頻繁に連絡を取り合っていると推測されており、交渉の動向が大統領を含む米国政府の高官間で密に共有されている状況がうかがえます。これにより、交渉の意思決定や調整が迅速に行われる可能性が高まっています。
5. 経済安全保障分野の協力強化
経済安全保障分野においては、日米両国が協力強化に向けた具体的な議論を進めています。特に半導体分野では、双方がそれぞれ持つ技術的・生産面での強みを活かしながら、より強靭で安定的なサプライチェーンの構築を目指すことが基本的な方針となっています。この協力は、グローバルな供給網の脆弱性を低減し、安定的な半導体供給を確保するうえで重要な位置を占めています。
また、レアアース(希土類)に関しても、経済安全保障上の重要な資源として両国が共通認識を持っています。中国がこれらの資源に対して禁輸措置を取っていることも踏まえ、日米間での確保・供給安定化に向けた連携が急務とされています。
さらに、造船業に関しては、技術協力の推進や日米両国の造船業再生に向けたファンド設立など、多角的な支援・連携策の検討も進行中です。これらの取り組みは、経済安全保障の枠組みを超え、産業競争力の強化や雇用創出にも寄与することが期待されています。
6. 今後の展望
今後の展望として、2025年6月中旬にカナダで開催される主要7か国首脳会議(G7サミット)にあわせて、石破茂首相とトランプ米大統領が首脳会談を行う予定です。この首脳間の会談では、日米関税交渉に関する一定の合意を目指すための調整が進められています。
さらに、G7サミットを前に両国は閣僚級の再協議を実施し、交渉の加速と具体的な合意形成に向けて取り組むことで一致しています。これにより、これまでの協議を踏まえた最終調整が行われる見込みです。
また、米国側が求める対日貿易赤字の削減に応じる形で、日本側は防衛装備品の購入拡大を検討しており、さらに米国産の大豆やトウモロコシなど農産物の輸入増加も模索されています。こうした多角的な貿易・経済協力の拡大も、今後の日米交渉における重要なテーマとなっています。
7. 赤澤経済再生相のコメント(一部抜粋)
赤澤亮正経済財政・再生担当大臣は交渉を振り返り、「『ゆっくり急ぐ』アプローチを取っている」と説明しました。これは、合意を急ぐあまり国益を損なうことのないよう慎重に進めつつ、可能な限り早期に実現を目指す姿勢を示しています。
また、自動車分野については「日本側にとって非常に重要な分野であり、米国側にとっても関心が高い」と指摘し、関税撤廃が合意の前提条件であるとの立場を改めて強調しました。関税の一部容認は考えておらず、完全な撤廃なしには合意は困難であるとの認識を示しています。
交渉の進展については、「非常に広範なテーマを話し合っているが、今回の協議は互いの立場を十分に認識するうえで意義があった」とし、議論の進展を確認。加えて、「米国側も同様の認識を共有している」と述べました。
さらに、赤澤大臣はトランプ大統領とベッセント財務長官、ラトニック商務長官の連携について触れ、「彼らが頻繁に連絡を取り合っている様子がうかがえ、交渉の意思決定が密接に連携していることが見て取れる」と述べ、米国側の調整体制の強さを示唆しました。
8. まとめ
日米関税交渉はこれまでに4回の閣僚級協議を交互に重ね、双方が合意に向けた議論を着実に進展させています。日本側は、自動車および関連部品に課せられた関税の完全撤廃を譲れない前提条件と位置づけており、この点が交渉の最大の焦点となっています。
また、経済安全保障の強化を目指す分野での協力も重要な交渉テーマとなっており、半導体やレアアースの供給網安定化、造船業の技術連携など、多岐にわたる分野での日米連携が議論されています。
今後は、6月にカナダで開催される主要7か国首脳会議(G7サミット)における石破首相とトランプ大統領の首脳会談を経て、交渉は最終段階に入る見通しです。サミット前の閣僚級再協議も予定されており、双方が合意形成に向けて最終調整を加速させることが期待されています。
【FPTRENDY内部リンク】
【外部関連リンク】
- 日本銀行(BOJ)公式サイト ─ 国内金利や政策決定の確認に。
- 米連邦準備制度理事会(FRB)公式サイト ─ FOMCや声明内容はこちら。
- Bloomberg(ブルームバーグ日本版) ─ 世界の金融・経済ニュースを網羅。
- Reuters(ロイター日本語版) ─ 最新のマーケット速報と経済記事。
- TradingView ─ 株価・為替・指数チャートの可視化に便利。