現代の日本では、高齢化や医療ニーズの多様化により地域医療の重要性が増しています。しかし、全国で築40年以上の老朽化した病院が約1600か所に上るなど、病院施設の老朽化が大きな課題となっています。建て替えには建築費の高騰や土地確保の困難さ、経営悪化などの壁があり、地域医療を支える病院の存続が危ぶまれる事態も出ています。本記事では、最新の調査結果を基に病院老朽化の現状、その背景と問題点、そして解決に向けた取り組みや課題についてわかりやすく解説します。

築40年以上の老朽病院が全国に約1600か所
全国の病院のうち、築40年以上の老朽化した病棟を抱える施設は、2023年の都道府県への「病床機能報告」データによると、なんと1623か所に上り、全体の約27%を占めています。これは、およそ4つに1つの病院が法定の耐用年数を超える古い建物で医療を提供しているという深刻な現状を示しています。
さらに、築50年以上の病棟を持つ病院も568か所、築60年以上の非常に古い病棟を抱える病院も151か所あり、老朽化の度合いはかなり進んでいます。これらの古い病院は、単に建物が古いだけでなく、最新の医療機器を導入したり安全基準を満たしたりする上でも課題が多く、患者さんにとっても不安が残るケースが少なくありません。
地域別に見ると、東京都や大阪府、北海道といった大都市圏だけでなく地方都市や郡部にもこうした老朽病院は広く存在しています。特に重要なのは、これらの築年数の長い病院の多くが、地域の救急医療の最前線を担っている点です。二次救急病院や三次救急病院といった緊急度の高い患者を受け入れる医療機関でも老朽化が進み、医療の質と安全を守るための建て替えや改修が急務となっています。
このように、全国の医療現場では施設の老朽化が大きな問題となっており、地域住民の安心・安全な医療環境の維持のためには、早急な対応が求められているのが現状です。
なぜ老朽化した病院が多いのか
戦後の日本では、経済復興とともに医療への需要が急速に高まり、多くの病院が次々と建設されました。特に1950年代から1980年代にかけて、国民皆保険制度の整備や高度経済成長期の波に乗り、医療施設の数が大きく増えたのです。
この時期には病床の数も急激に増加し、1985年ごろには地域で必要とされる病床数がほぼ満たされました。それ以降、新たな病院の建設は減少傾向にありましたが、その結果、当時建てられた多くの病院は現在「築40年以上」となり、法律で定められた建物の耐用年数を超えている施設が全国で多数存在しています。
こうした古い病院の多くは、長い年月の間に医療機器や建築基準が進化している中で、そのまま使い続けられているため、老朽化が進みやすい状況にあります。
さらに近年では、建築資材の価格上昇や人件費の増加に加え、特に都市部では土地の価格も高騰し、新たな用地の確保が非常に難しくなっています。これらの要因が重なり、老朽化した病院の建て替えや大規模改修が難しい状況が続いているのです。
つまり、戦後の医療施設の急速な増加が一段落し、長年使われ続けてきた病院が老朽化した現在、その更新に伴う経済的・物理的なハードルが高まっていることが、老朽病院が多い根本的な理由となっています。
都市部でも診療休止が相次ぐ深刻な状況
都市部においても、老朽化した病院の問題は深刻で、診療を休止せざるを得ないケースが増えています。例えば、東京都武蔵野市にある吉祥寺南病院は、築50年以上になる老朽病棟の建て替えが難航し、2024年10月にやむなく診療を全面休止しました。この病院は地域の救急医療を支える重要な施設であり、年間約2000件もの救急搬送を受け入れてきました。そのため、診療休止は地域の医療提供体制に大きな影響を与え、他の病院に患者が集中するなど、医療現場に負担が増す結果となっています。
また、近隣の三鷹市にある野村病院も築58年の古い病棟を抱え、老朽化対策に苦慮しています。病院では修繕に努める一方で、慢性的な人材不足にも直面し、看護師や医療スタッフの確保に大きな努力を払っています。しかし、建て替えのために必要な土地の確保や膨れ上がる建築費用の負担が大きく、将来的な再整備計画の実現には依然として多くの課題が残されています。
このように、都市部でも老朽化による医療機関の休止や縮小が相次ぎ、地域住民の安心できる医療体制の維持がますます厳しい状況に追い込まれています。医療機関の経営環境が厳しい中で、建物の老朽化問題は放置できない深刻な社会問題となっています。
建て替えに向けた連携と効率化の取り組み
老朽化した病院の建て替えには莫大な費用がかかるうえ、都市部では土地の確保も困難なため、多くの医療機関が単独での再建に苦戦しています。そんな中、山形県米沢市では、公立病院と民間病院が互いに敷地を共有し、連携して建て替えを進めるという先進的な取り組みが行われています。
具体的には、市立病院と民間病院が隣接して新しい建物を建設し、共用部分を設けることで、給食センターや電気設備などの施設を一つにまとめています。これにより、両病院が個別に建て替える場合に比べて大幅なコスト削減が実現しました。また、医療機能も効率的に分担し、市立病院が急性期医療を中心に担当し、民間病院はリハビリなどの回復期医療を担う体制を整えています。
さらに、高額な医療機器は市立病院に集約され、民間病院は必要な際にそれらを利用する形をとることで、設備投資や維持費用の削減も図っています。この連携により、限られた医療資源を有効活用しつつ、地域住民に必要な医療サービスを安定して提供することが可能となっています。
こうした共同建て替えと機能分担のモデルは、老朽化が進む病院の課題を乗り越え、地域医療を持続可能にするための重要な一歩として注目されています。今後、同様の取り組みが他の地域でも広がることが期待されています。
専門家が指摘する地域医療の再編と行政支援の必要性
奈良県立医科大学の専門家は、老朽化した病院の建て替えが難しくなり、その結果として閉院を余儀なくされるリスクを「非常に大きな問題」と捉えています。特に土地の確保が難しく建築費も高騰する都市部では、この問題が一層深刻化しており、単に病院単体の努力だけでは解決が難しい状況です。
そのため、国や自治体による財政的・制度的な支援が不可欠であると同時に、地域全体で医療機能の役割分担を明確にし、病院同士の統合や再編といった大きな構造改革を進める必要があると指摘しています。これは、限られた医療資源を無駄なく効率的に活用し、地域住民に質の高い医療を持続的に提供していくための重要な戦略です。
財政面での制約があるなか、地域の医療提供体制を抜本的に見直し、医療機関が連携して機能を分け合うなど、計画的で戦略的な医療ネットワークの構築が急務とされています。こうした再編を進めることで、老朽化問題による医療崩壊を防ぎ、地域の安心・安全な医療環境を守ることが求められています。
今後の展望と地域医療の持続に向けて
日本では高齢化が急速に進み、それに伴い医療ニーズも多様化・増加しています。このような状況の中で、老朽化した病院の建て替えや修繕はもちろん必要ですが、それだけでは地域医療の課題を解決することは難しいと考えられています。
今後は、地域の医療機関同士が連携を強化し、医療資源や機能を集約・効率化する「地域医療ネットワーク」の見直しが避けられません。これにより、限られた人材や設備、資金を最大限に活かしながら、患者さんに質の高い医療を安定的に提供していくことが可能になります。
また、行政や医療機関、地域住民が一体となって話し合いを重ね、地域の実情に合った柔軟で持続可能な医療体制を構築することが求められています。医療の供給体制を見直すことで、将来にわたって安心して暮らせる地域社会を守ることができるでしょう。
こうした取り組みは一朝一夕には進みませんが、老朽化という現実的な問題を踏まえ、地域医療の持続性を確保するための重要なステップとなります。今後の動向に注目が集まっています。
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【外部関連リンク】
- 日本銀行(BOJ)公式サイト ─ 国内金利や政策決定の確認に。
- 米連邦準備制度理事会(FRB)公式サイト ─ FOMCや声明内容はこちら。
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