1. 国内旅行者の伸び悩みと高齢者の旅行事情
2024年の日本国内の延べ旅行者数は約5.4億人に達しましたが、新型コロナウイルスが流行する前の2019年の5.9億人にはまだ届いていません。このことは、国内旅行の回復が完全とは言えない現状を示しています。
特に注目されるのは、高齢者の旅行頻度の低さです。70代以上の人のうち、2024年に宿泊を伴う旅行に一度も行かなかった人の割合は69.3%に上ります。これは10年前の2014年に比べて11ポイント近く増加している数値であり、高齢者の旅行控えが一層進んでいることがわかります。
その背景には健康面の不安が大きく影響しています。高齢者の多くは、自身の体調や健康状態に対して慎重であり、旅行に出かけることに抵抗を感じるケースが少なくありません。こうした事情を踏まえ、観光白書は健康に不安がある高齢者も安心して旅行できる環境づくりが不可欠だと指摘しています。具体的には、バリアフリーの充実や医療支援体制の整備など、すべての世代が旅行を楽しめる工夫が求められています。
このように、高齢者の旅行離れは国内観光市場にとって大きな課題であり、今後は健康面に配慮した環境整備が高齢層の旅行促進の鍵を握るといえるでしょう。
2. 地方の旅行需要と国内客の重要性
日本各地の地方部における宿泊旅行の状況を見ると、延べ宿泊者の約9割が日本人、つまり国内からの旅行客で占められていることがわかります。この数字は、地方観光の大きな柱が訪日外国人ではなく、国内の旅行者に支えられている現実を示しています。
地方の観光地にとって、地元以外から訪れる国内旅行者は経済を活性化させる重要な存在です。宿泊や飲食、土産物の購入など、さまざまな形で地域経済に直接的な貢献をもたらしています。特に近年の訪日外国人観光客の増加に伴い、一部の大都市や人気観光地ではインバウンドが注目される一方で、地方における観光収益の多くは国内客によって支えられていることが再確認されました。
したがって、地方経済の持続的な発展を目指すうえで、国内旅行者の取り込みは不可欠です。地方自治体や観光関連事業者は、地域の魅力を高めるだけでなく、国内客が安心して訪れやすい環境を整備し、リピーターの獲得や新たな旅行需要の創出に注力する必要があります。
このように、地方の観光振興には国内旅行市場の強化が大きな役割を果たしており、地域経済活性化のための重要な課題として位置付けられています。
3. 旅行消費額と旅行の曜日傾向
2024年における日本国内の旅行消費額は約34.3兆円に達しました。その内訳を見ると、日本人による宿泊を伴う旅行が20.3兆円と全体の約6割弱を占めており、さらに日帰り旅行も4.8兆円と約14%の割合を示しています。これらの数字は、国内旅行市場において宿泊旅行が消費の大きな柱であることを示しています。
また、観光庁の調査によると、旅行を実施する曜日に関しては、10代から50代の若年層から中年層にかけては休日に旅行が集中する傾向が強く見られます。つまり、週末や祝日を中心に旅行需要が偏っているということです。
こうした曜日や期間の偏りは、一部の観光地においては外国人観光客の増加とも相まって、観光地の混雑をさらに深刻化させています。混雑は旅行者の満足度を下げるだけでなく、地域の環境負荷や交通渋滞の原因ともなり得ます。
そのため、政府や観光関係者は旅行需要の平準化、つまり繁忙期と閑散期の差を縮める取り組みを課題として認識しています。例えば、大型連休の分散化や平日の旅行促進、ワーケーションの普及など、多様な施策で混雑緩和を目指し、より持続可能で快適な観光環境の実現を図っています。
4. インバウンドと国内旅行のバランス
2024年には訪日外国人旅行者数が約3687万人に達し、旅行消費額も8兆円を超える過去最高の水準となりました。これはインバウンド市場が力強く回復・拡大していることを示しており、日本の観光業にとって大きな追い風となっています。
しかし一方で、日本人の国内旅行者数はコロナ禍前の水準と比べて約8.2%減少しており、国内旅行の回復はまだ十分とは言えません。特に人口減少や少子高齢化といった社会構造の変化が、この伸び悩みの背景にあると考えられています。
こうした課題を踏まえ、国内旅行市場の活性化には、単に旅行者数を増やすだけでなく、一人当たりの旅行回数を増やすことや、旅行の滞在期間を長くすることが必要だと指摘されています。これにより、国内旅行の消費額をより一層伸ばし、観光業全体の持続的な成長を目指すことが求められています。
つまり、インバウンドの拡大と並行して、国内旅行の需要をいかに引き上げるかが今後の大きな焦点となっているのです。
5. 政府の取り組みと今後の課題
政府は国内旅行の活性化に向けて、さまざまな施策を展開しています。まず、地元住民との交流を深めることで旅行者の満足度を高め、地域への愛着や理解を促すことでリピーターの獲得を目指しています。こうした交流型の観光は、単なる観光地巡りを超えた体験を提供し、地域の魅力をより深く味わってもらうことが狙いです。
また、仕事と休暇を両立させる「ワーケーション」の推進も重要な施策です。働く場所の自由度が高まることで、長期滞在や平日利用が促され、旅行需要の平準化にもつながると期待されています。これにより、混雑が集中する週末や祝日だけでなく、閑散期や平日にも観光客を分散させる効果が期待されます。
さらに、大型連休の分散化を促す取り組みも進められています。例えば、祝日の移動や休日の分散によって、旅行や休暇の時期を分けることで観光地の過密化を緩和し、快適な旅行環境を作ることを目指しています。
最後に、健康面で不安のある高齢者も含め、誰もが旅行しやすい環境づくりが大きな課題として挙げられています。バリアフリー設備の充実や医療体制の整備など、多様なニーズに応じた環境整備を進めることで、高齢者層の旅行促進を図り、国内旅行市場の底上げを目指しています。
これらの取り組みを通じて、持続可能で誰もが楽しめる観光立国の実現が期待されていますが、一方で具体的な実施と成果の検証、さらなる課題解決への継続的な努力が今後も求められています。
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【外部関連リンク】
- 日本銀行(BOJ)公式サイト ─ 国内金利や政策決定の確認に。
- 米連邦準備制度理事会(FRB)公式サイト ─ FOMCや声明内容はこちら。
- Bloomberg(ブルームバーグ日本版) ─ 世界の金融・経済ニュースを網羅。
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