米中、追加関税「115%引き下げ」で合意──円安進行の背景と市場の反応

2025年5月12日、米中両政府はスイスで行われた2日間の協議を経て、互いに課していた追加関税を「115%引き下げる」ことで正式に合意したと発表した。これにより、長らく続いていた100%超の関税応酬は一時的に緩和され、国際市場ではドル高・円安の動きが加速している。


合意の概要:事実上の「一時停戦」

今回の合意内容は以下のとおり:

  • 中国側:米国製品への追加関税125%を10%に引き下げ(うち24%分は90日間の停止措置)
  • 米国側:中国製品への関税145%を30%程度まで実質引き下げ(うち24%分は停止、10%を維持)
  • 今後:90日間の協議期間中に再交渉を進める意向を双方が示す

米財務長官ベッセント氏は「デカップリングは望まない」と述べ、実質的な貿易の再開に向けた対話姿勢を強調した。


背景:激化していた関税合戦

2025年初頭からトランプ政権は、薬物流入や不公正貿易を理由に追加関税を段階的に発動。4月には最大145%まで拡大した。これに対し中国も125%まで対抗関税を課し、両国の貿易は事実上「禁輸措置」に近い状態となっていた。


中国経済の悪化と対応

  • 対米輸出:4月は前年比▲21%の大幅減少
  • 製造業景況感指数:50を割り、3カ月ぶりの「景気後退圏」に
  • 関税除外措置:医薬品や一部半導体は関税対象外とし、輸入コストの抑制を試みた

関税の影響はすでに企業の生産や雇用マインドに波及しており、習近平政権としても対話再開は避けられない判断だったと見られる。


アメリカ経済への波紋

  • 消費者信頼感指数:4月は86.0と前月比▲7.9、5年ぶりの水準
  • 航空業界:アメリカン航空やユナイテッド航空が業績予想を撤回、便数削減も発表
  • 製造業のコスト増
    • GM:関税関連コスト50億ドル(約7200億円)
    • フォード:25億ドル(約3500億円)

また、ロサンゼルス港では3月の貨物量が前年比▲15%減となり、物流の停滞も顕在化している。


ドル上昇と円安の背景

米中合意を受けて、為替市場ではドル買い・円売りの動きが強まった。ドルの信認が回復しつつある中で、日銀の緩和継続姿勢との乖離もあいまって、ドル円相場は急速に上昇している。

📈 ドル円チャート(2025年5月12日時点)

  • 終値:148.182円(+1.93%)
  • 対前日で2.808円の急騰、4月末以来の高値水準を更新
  • 政策・貿易合意を好感した海外投資資金の円売りが加速

📈 ドルインデックス(DXY)チャート

  • 終値:101.604(+1.18%)
  • 米金利とリスク選好の復調が反映され、ドル指数も連日の上昇

市場の心理を示すVIX指数も沈静化

📉 VIX指数チャート(恐怖指数)

  • 終値:20.01(-8.59%)
  • 4月に50を超えていた水準から大幅に低下

VIX指数(恐怖指数)は、2025年3~4月に急騰したリスク警戒感が後退しつつあることを示している。米中貿易合意が市場の不安定要因を一時的に取り除いたことで、株式市場やリスク資産全体に対する投資家の心理が安定に向かっている。

今後の見通しと懸念材料

専門家によれば、90日間の協議期間中に具体的な譲歩ができるかが鍵となる。焦点は以下のとおり:

  • 米中の貿易赤字解消
  • 為替操作知的財産権保護問題
  • 安全保障関連分野での管理強化

また、再び関税措置が再燃するリスクも払拭できていない。


結語:一時的な休戦と市場の期待

今回の米中合意は、世界経済にとって一時的な安堵をもたらす「関税の休戦」と言える。だが、対立の根底にある地政学・構造問題の解決にはまだ時間がかかる。為替・株式・商品市場は今後の交渉次第で再び波乱含みとなる可能性があるため、注意深く動向を見極める必要がある。

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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