SNSで話題の“週1回注射”——糖尿病薬マンジャロの実像と、副作用・制度の現実
「打ち始めたら、食欲がすっと消えた。でも、やめられなくなった」
ネット上には、こうした体験談が投稿されている。話題の中心にあるのは「マンジャロ」——本来は2型糖尿病の治療薬として承認された注射薬だ。美容クリニックのSNS広告やオンライン診療を通じて処方を受ける人が増え、“痩せ薬”としての評判が広まっている。
なぜこの薬がここまで注目されるようになったのか。その仕組みと、知っておかなければならないリスクを、公的機関の資料をもとに整理する。
そもそも「マンジャロ」とはどんな薬か
マンジャロの一般名は「チルゼパチド」。GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)という2種類のホルモンの受容体に同時に働きかける薬で、「GIP/GLP-1受容体作動薬」に分類される。
この2つのホルモンは、食後の血糖値上昇を抑えたり、膵臓からインスリンを分泌させたりする役割を持つ。加えて満腹感に関わる経路を介し、食欲を抑える方向に働くことがある。週に1回、皮下に自己注射するタイプの薬で、日本では2型糖尿病の治療薬として承認されている。
同じ有効成分チルゼパチドを用いた薬が「ゼップバウンド」という名称で、肥満症の治療薬としても2024年12月に日本で承認されている。同じ成分の薬が、用途によって異なる名称で流通している状況だ。
■「体重が落ちやすい」と言われる理由
体重が落ちやすいことは臨床試験でも示されている。主な要因としては、食欲が抑制されることで摂取カロリーが減ることが挙げられる。この効果がクローズアップされ、「ダイエット薬」としての評判が一人歩きしている面がある。
なぜ今、これほど話題になっているのか
■ 美容クリニックが“入口”になっている
ネット上では「週1回で食欲コントロール」「簡単に始められる」といったコピーの広告が目立つ。美容クリニックや自由診療クリニックが、SNSやLINEを通じてマンジャロの処方を案内しているケースだ。
「LINEに登録して問診票を送ったら、電話で身長と体重を伝えるだけで処方してもらえた」
SNS上にはこうした体験談も散見される。費用やプランは医療機関により幅があり、定期配送を組み合わせた自由診療メニューとして案内される例もある。
■ オンライン診療の仕組みと、そこに潜む課題
マンジャロは医師の処方が必要な「処方箋医薬品」であり、ドラッグストアや一般通販では購入できない。日本ではオンライン診療自体が認められた医療行為であるため、オンラインで診察→処方→配送という流れは制度上の枠内に収まる。
一方で問題として指摘されているのは、この仕組みの中で「痩せたい」という目的——本来の承認適応外——に対し、十分な説明が尽くされないまま処方が行われるケースが生じ得る点だ。
国民生活センターは、糖尿病治療薬を痩身目的で使用することについて「安全性と有効性は確認されていない」と明記したうえで、薬の内容・副作用・管理方法について十分な説明を求めるよう呼びかけている。また、定期購入の解約条件や費用をめぐる相談・トラブルも報告されている。
■ 話題化の背景にある複合的な要因
国内でマンジャロへの関心が高まっている背景には複数の要因が重なっているとみられる。SNSや報道を通じた「痩せ薬」としての認知拡大に加え、同成分の肥満症薬「ゼップバウンド」の保険適用をめぐる議論が活発化し、「マンジャロとの違いは何か」「自分は使えるのか」という疑問が関心を呼び込んでいる。さらに、規制当局の安全性注意喚起が報道されるたびに、「副作用は本当に大丈夫か」という検索・閲覧が増える、という構造もある。
副作用——よくある不快症状から、重篤化し得るリスクまで
「最初の2週間は吐き気がひどくて、まともに食事ができなかった」
「便秘が続いて、お腹が張って動けない日があった」
体験談にはこうした声が並ぶ。マンジャロの副作用について、国内外の規制当局の情報をもとに整理する。
■ よくみられる副作用(頻度が高い)
消化器系の症状が中心だ。悪心(吐き気)、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、食欲低下、消化不良などが報告されている。投与初期に出やすく、用量を段階的に増やすことで軽減を図ることが多い。ただし症状が強い場合は脱水につながることもあり、注意が必要だ。
■ まれでも重篤になり得る副作用(国内・PMDA)
日本のPMDA(医薬品医療機器総合機構)が添付文書で「重大な副作用」として整理している項目を中心に挙げると、主に以下のものがある。
・低血糖
インスリン製剤やスルホニル尿素薬など他の糖尿病薬と併用した場合にリスクが高まる。冷や汗、震え、意識障害などが現れることがある。
・アナフィラキシー/血管性浮腫
重篤なアレルギー反応。PMDAは国内外の症例を評価したうえで「使用上の注意」に追記した経緯がある。
なお、添付文書にはこのほかにも注意すべき事項が列挙されている。ここでは「重大な副作用」として特に明示されている項目を軸に整理している。
■ 承認後(市販後)に報告が集まっている事象
使用が広がる中で、急性膵炎、腸閉塞(イレウス)、急性腎機能障害、脱毛なども報告例として挙がっている。これらは「因果関係が確定した」ものではなく、「自発報告として事例がある」という位置づけであり、各国当局が引き続き監視を続けている段階だ。
■ 米国FDA:処方情報最上段の「枠付き警告」
米国FDAはマンジャロの処方情報の最も目立つ箇所に「Boxed Warning(枠付き警告)」を設けている。動物試験で甲状腺C細胞腫瘍との関連が示された知見を根拠としており、甲状腺髄様癌の個人歴・家族歴がある場合は禁忌とされている。
■ 英国MHRA:GLP-1系薬全体への膵炎注意喚起を更新
英国の医薬品規制当局MHRAは2026年1月、チルゼパチドを含むGLP-1受容体作動薬全体を対象に、急性膵炎に関する注意喚起を強化した。英国では2007年から2025年10月までの期間に、Yellow Card(副作用自発報告制度)を通じて膵炎関連の報告が1,296件に上ったことを公表。まれではあるが壊死性膵炎や致死例も含まれるとして、医療従事者・患者双方に向けた情報を更新している。
この動きは「危険な薬だから撤退」という話ではない。利用者の増加にともない、規制当局が副作用シグナルを丁寧に監視し、情報を随時更新しているという状況に近い。安全性評価が継続中であることは、広く使われるようになった薬に共通する過程でもある。
「やめられない」のはなぜか——依存ではなく、“反動”の問題
「体重が戻るのが怖くて、やめられない」
「食欲が戻ってきたとき、これが本来の自分なのかと怖くなった」
ネット上にはこうした投稿も目立つ。「手放せない」感覚はどこから来るのか。
一般に、マンジャロは麻薬のような意味での依存性薬物として扱われるものではない。一方で、「薬が効いている間は食欲が抑えられ体重が落ちるが、使用をやめると食欲が戻り、体重も戻りやすい」という、作用が明確な薬に共通する継続問題は起こり得る。
「細くなければならない」というプレッシャーや職業上の事情が重なると、体重が少しでも戻ることへの不安が強まり、「やめられない」という状況が生まれやすい。これは薬そのものの問題というより、使う側の状況・心理との相互作用として理解したほうが実態に近い。
自己判断で長期にわたって使い続けることは、医師の管理下にない副作用リスクの蓄積につながりかねない。「やめ方」についても、医師と相談しながら進めることが推奨される。
本来、誰が使っていい薬なのか——制度と条件の現実
「痩せたいからマンジャロを処方してほしい」という要望は、制度上どう扱われるのか。
■ マンジャロ(糖尿病薬)の場合
日本での承認適応は2型糖尿病の治療だ。糖尿病でない人が痩身目的で保険処方を受けることはできない。
■ ゼップバウンド(肥満症薬)の保険適用条件
同じチルゼパチドを用いた肥満症治療薬「ゼップバウンド」は2024年12月に日本で承認されているが、保険適用の条件は厳しく限定されている。厚生労働省の資料等をもとに整理すると、大きく以下の枠組みとなっている。
・BMI35以上の肥満症
・または、BMI27以上かつ肥満関連の健康障害(高血圧、脂質異常症、2型糖尿病など)が2つ以上あり、食事療法・運動療法だけでは十分な効果が得られない場合
さらに保険適用にあたっては、一定の要件を満たす医療機関での使用や、食事・運動療法を一定期間実施していることなど、運用面の条件も課されている。
つまり「BMIが25を超えているから」というだけでは、保険適用の対象にはならない。
■ 適応外使用はノーリスクではない
自由診療(保険外)で美容クリニック等から処方を受けるケースは直ちに違法とはいえないが、厚生労働省は適応外使用について安全性・有効性の面での注意を促している。日本医師会も、適応外使用の拡大によって「本来必要な患者に薬が届きにくくなる」問題を指摘している。
【まとめ】「気軽に始められる」と「重篤化し得るリスク」の間にあるもの
マンジャロは確かに体重を減らす効果が認められている薬だ。しかしもともとは、血糖値コントロールが難しい糖尿病患者のために作られた医療用医薬品であり、「痩せたいから打つ」ことを想定して設計されたものではない。
「手軽に始められる」という入口の印象と、「重篤な副作用も起こり得る」という事実の間には、大きなギャップがある。そのギャップを埋めないまま使い始めると、消化器症状に苦しんだり、やめられない状況に陥ったり、最悪の場合は急性膵炎などの深刻な事態を招く可能性もある。
使用を検討しているなら、まずかかりつけ医に相談することを勧める。オンライン診療を利用する場合も、副作用の説明が十分になされているか、解約条件を事前に確認したかどうかを必ずチェックしたい。
「痩せたい」という気持ちは自然なことだ。だからこそ、その手段が自分の体に本当に合っているかどうか、正しい情報をもとに判断することが何より大切になる。
【主な参照資料】
・PMDA(医薬品医療機器総合機構)マンジャロ皮下注 添付文書・インタビューフォーム
・厚生労働省 GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する資料
・国民生活センター 痩身目的等のオンライン診療に関する注意喚起
・米国FDA Mounjaro 処方情報(Prescribing Information)
・英国MHRA GLP-1受容体作動薬の安全性アップデート(2026年1月)
・日本医師会 GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する見解
※本記事は公的機関の公表資料をもとに構成しています。個別の医療判断については、必ず医師にご相談ください。

