
🧳 消えた「爆買い客」、残った「日本ファン」
今日2月15日、中国で史上最長となる9連休の春節(旧正月)休暇が始まった。帰省ラッシュと旅行シーズンが重なる「春運」期間には、40日間で延べ95億回もの移動が見込まれている。世界最大級の人の移動——その行き先から、日本の名前が消えた。
中国の旅行予約サイトが発表した海外旅行先ランキングで、日本は東南アジア38.7%、韓国16.5%に次ぐ3位の15.0%。前年は堂々の1位だったが、今年は9.3ポイントも下落した。日中関係の緊張を背景に、日本行き航空便の予約数は前年比43.7%減。58の路線で全便がキャンセルされ、物理的に「行けない」状況が生まれている。
韓国は春節期間中に最大19万人の中国人観光客を受け入れる見込みで、トルコやニュージーランドの予約数は前年比2倍以上に跳ね上がった。タイ、ロシアといった新興の旅行先も人気を集め、中国人観光客は確実に「日本離れ」を起こしている——少なくとも、数字の上では。
🎌 それでも日本を選ぶ人たち
だが、現場で起きていることは少し違う。日本航空(JAL)が発表した春節期間の予約率は約8割。前年比では1割減にとどまり、予想されたほどの落ち込みは見られなかった。しかも予約者の多くは、団体ツアーではなく個人客。それも、何度も日本を訪れているリピーターが中心だという。
ある調査によれば、今年の春節に日本を訪れる予定の中国人観光客の61.5%が「周囲の情報や社会的なムードに迷うことは全くなかった」と回答している。日本を選んだ理由として最も多かったのは「日本独自の文化・芸術への関心」で55.9%。さらに興味深いのは、訪日予定者の59.2%がゴミ分別のルールを事前にリサーチしていたという事実だ。
彼らの関心は、かつての「ゴールデンルート」から次のようにシフトしている:
- 地方の祭事
- アニメの聖地巡礼
- 高級温泉旅館
直前予約が目立つのは、航空便の状況を見極めながら、それでも日本に行きたいと考える人々の存在を示している。団体客は消えた。しかし、本物の「日本ファン」は残った。
📊 「95億人」という数字の裏側
では、あの「95億人」という圧倒的な数字は何を意味するのか。実はこの数字、9日間の連休で動く人数ではない。春運と呼ばれる40日間(2月2日〜3月13日)の延べ移動回数だ。同じ人が帰省して戻れば2回、乗り継ぎをすればさらにカウントされる。中国の人口は約14億人。95億という数字は、一人が平均6〜7回移動する計算になる。
数字の真実
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 春運期間 | 40日間(2/2〜3/13) |
| 延べ移動回数 | 95億回 |
| 1日あたり出入国者数 | 205万人超 |
| 9日間の推定出入国者数 | 約1,800万人 |
メディアが「95億人の大移動」と報じるとき、読者は無意識のうちに「それだけの人数が海外に向かう」と想像してしまう。だが実態は違う。国家移民管理局の発表によれば、春節期間中の1日あたりの出入国者数は205万人超。9日間で計算しても約1800万人程度だ。しかも、これは出国と入国の合計である。
国内旅行の人気目的地トップ10はすべて南部の温暖な都市。海南島のテーマパークホテルは予約数が前年比94%増、オールインクルーシブ型の海外パッケージツアーも57%増と好調だ。つまり中国人の大半は、国内か近場のアジアでゆっくり休暇を楽しんでいる。「95億人が世界へ」という印象とは、かなり異なる実像がそこにある。
📈 「中国人減少=危機」ではない現実
ここで、もう一つの意外な事実がある。中国人観光客が減少する一方で、日本のインバウンド市場は2025年、過去最高を記録したのだ。
2025年インバウンド実績
| 指標 | 数値 | 前年比 |
|---|---|---|
| 訪日外国人数 | 4,268万人 | +15.8% |
| 消費額 | 9.5兆円 | +16.4% |
| 米国からの訪日客 | 300万人超 | 初突破 |
| 豪州からの訪日客 | 100万人超 | 初突破 |
中国人観光客が12月単月で45%も減少したにもかかわらず、韓国、タイなど7つの市場で単月の過去最高を更新した。特に欧米豪からの旅行者が急増し、米国は初めて累計300万人、オーストラリアは初めて100万人を突破している。
1人あたり消費額の比較
中国 ■■■■■■■■■■■■ 24万円
ドイツ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 39万円
英国 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 35-40万円
豪州 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 35-40万円
経済効果で見ても、状況は悪くない。中国人観光客の1人あたり消費額は約24万円だが、ドイツ人は39万円、イギリス人やオーストラリア人も35〜40万円を使う。欧米豪からの消費額は前年比28%増と大きく伸び、全体の31%を占めるまでになった。つまり、中国人観光客1人の穴は、欧米豪の観光客0.6人で埋められる計算だ。
消費構造の変化
消費の中身も変わった:
- 買い物代:構成比 -3.1ポイント減少
- 宿泊費:構成比 +2.7ポイント増加
- 飲食費・娯楽サービス費:増加傾向
「モノ消費」から「コト消費」へ——長期滞在し、体験にお金を使う欧米豪の旅行者が、日本のインバウンド市場を質的に変えつつある。
地域による明暗
もちろん、地域によって影響は異なる:
| 都道府県 | 中国人宿泊者比率 | 影響度 |
|---|---|---|
| 静岡県 | 40% | 深刻 |
| 和歌山県 | 39% | 深刻 |
| 兵庫県 | 32% | 深刻 |
| 東京・北海道 | 低い | 限定的 |
こうした中国依存度の高い地域は、今回の減少で深刻な打撃を受けている。一方、東京や北海道のように市場が多様化した地域では、欧米豪の増加が穴を埋めた。インバウンドは今、地域によって明暗が分かれる時代に入っている。
🌸 「量」から「質」へ、市場は転換する
春節の”大移動”から日本が外れたのは事実だ。しかし**消えたのは「団体客」であり、残ったのは「日本ファン」**だった。
2012年の尖閣諸島問題のとき、訪日中国人は1年以上かけて回復した。今回も政治的緊張が続けば、団体ツアーの回復は時間がかかるだろう。だがリピーターの個人客は、周囲のムードに左右されず日本を選び続けている。彼らは次のような行動を取っている:
- ✅ ゴミ分別を学ぶ
- ✅ 地方の祭事に足を運ぶ
- ✅ 高級温泉でゆっくり過ごす
中国依存度の低下
2019年: ████████████████████████████████ 30%
2025年: ███████████████████████ 23%
インバウンド市場全体を見れば、中国への依存度は2019年の30%から2025年には23%へと低下した。これは決して悪いことではない。一つの国に依存するリスクが分散され、欧米豪という高単価市場が育ち、日本の観光業は**「量」から「質」へと確実に転換**している。
💭 おわりに
今日から始まった春節。95億という数字に目を奪われる必要はない。大切なのは、誰が、なぜ日本を選ぶのか。その答えは、消えた団体客ではなく、残った日本ファンの中にある。
本記事は2026年2月15日時点の情報に基づいています。

