ロイターやNHKの報道によると、INPEX(1605)はオーストラリアのガス田で生産するコンデンセートを日本企業向けに優先販売する方向で調整している。コンデンセートはナフサを取り出しやすい超軽質の液体炭化水素で、石油化学の基幹原料に直結する。今回の報道を単なる原油確保の話として見ると焦点を外す。実際に浮かび上がっているのは、ホルムズ海峡リスクが日本の製造業にとって「燃料不足」より先に「原料不足」として表れうる現実だ。
プラスチックの前段で詰まるのはナフサだ
ナフサは、プラスチック、合成繊維、合成ゴム、洗剤、塗料、医薬品の一部などをつくる出発点にある。ガソリンが足りなければ車が走れないが、ナフサが足りなければ工場が作れない。石油化学にとっては、燃料価格の問題というより生産そのものの問題になる。
そのナフサを取りやすい原料のひとつがコンデンセートだ。天然ガス田から天然ガスとともに採れる超軽質の液体炭化水素で、一般の原油より軽く、ナフサ成分を多く含みやすい。石油化学業界が中東情勢の緊迫で神経をとがらせているのは、原油価格の上昇だけではなく、ナフサの調達そのものが細る可能性があるためだ。
INPEXは豪州でこの原料を一定量持つ。主力のイクシスLNGプロジェクトではピーク時に日量約10万バレルのコンデンセート生産能力を持ち、プレリュードFLNGプロジェクトでも17.5%の権益を保有する。報道されている優先販売は、こうしたLNG事業の副産物を国際市場より日本向けに厚く回す発想と読める。
ホルムズ海峡リスクは日本の石化原料に直結する
日本の原油輸入に占める中東依存度は、資源エネルギー庁によると2023年度で94.7%だった。しかも中東からの原油の大半はホルムズ海峡を通る。海峡の機能が落ちれば、原油価格の上昇だけでなく、製油所の原料不足、ナフサ供給の細り、石油化学プラントの稼働率低下という順番で産業活動に波及しやすい。
この懸念は机上の空論ではない。3月上旬には三菱ケミカルグループ(4188)が茨城県神栖市の設備でエチレン生産を抑え、3月12日には三菱ケミカルと旭化成(3407)が岡山県倉敷市の水島の共同設備でも減産を始めたと報じられた。エチレンはナフサからつくる基礎化学品で、ここが絞られると樹脂、繊維、包装材など下流の製品群まで影響が広がる。
つまり、いま市場が見ているのは「原油が高い」という一点ではない。輸入原油への強い依存が、石化原料の不足という形で国内生産に跳ね返る構造そのものだ。
INPEXの動きは商流調整より危機対応色が強い
今回の豪州分の報道は単独ではない。3月下旬には、INPEXが権益を持つカザフスタンの油田原油についても、日本企業向け優先販売を検討していると報じられた。公式発表ベースではないため断定は避けるべきだが、中東依存を補う供給先の組み替えを急いでいるとみる余地はある。
ここで重要なのは、INPEXが「どこから多く掘るか」ではなく、「持っている資源をどこへ流すか」を見直し始めた点だ。平時なら収益性を優先して国際市場へ振り向けやすい資源を、国内需要の下支えに使う方向が報じられている。これは通常の販売調整というより、供給途絶リスクが現実味を帯びた局面での危機対応色の強い判断だ。
政府も石油備蓄で動いている。経済産業省は3月16日、民間備蓄義務量を70日から55日に引き下げるとともに、当面1カ月分の国家備蓄石油を放出する方針を決めた。3月24日には国家備蓄原油の放出内容も公表している。ここで前面に出ているのは石油備蓄の活用であり、少なくとも現時点で論点の中心はLNG備蓄ではない。
それでも万能策ではない
もっとも、豪州産コンデンセートだけで日本の脆弱性を埋められるわけではない。イクシスやプレリュードの生産能力は大きいが、全量を日本向けに振り向けられるわけではなく、既存契約、輸送、精製設備との相性も絡む。数量、開始時期、販売先の詳細は見えておらず、4月2日時点でINPEX公式サイトでもこの件に関するニュースリリースは確認できない。
それでも今回の報道が示した意味は小さくない。日本の製造業にとっての資源安全保障は、原油価格の話だけで完結しない。ナフサが細れば、石化の基礎素材から先に詰まる。INPEXの豪州産コンデンセートをめぐる動きが注目されるのは、そこに日本のサプライチェーンの弱点がそのまま映っているからだ。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)*

