東京CPI1.7%で2か月連続2%割れ──でも安心できない「補助金の壁」と「原油高の波」

2026年3月の東京23区の消費者物価指数(CPI)速報値が発表された。生鮮食品を除く総合、いわゆるコアCPIは前年同月比1.7%上昇となり、2か月連続で2%を下回った。数字だけ見れば物価の落ち着きにも見えるが、市場ではこの数字をそのまま安心材料とは受け取りにくいという見方が出ている。

理由は単純ではない。今の物価は、補助金で押し下げられた見かけの総合指数と、原油高でこれから押し上げられうる先行圧力が同時に存在する、かなり読みにくい状態にあるからだ。

目次

「コアCPI」は何を測っているのか

まず指標の意味を整理しておく。

総務省が発表する「生鮮食品を除く総合」は、天候で大きくぶれる野菜や果物などの生鮮食品を除いた物価指数で、日本では慣例的にコアCPIと呼ばれる。ただし、ガソリン・電気・ガスなどのエネルギーは含まれるため、補助金や原油価格の影響を大きく受けやすい指標でもある。

今回の1.7%という数字を押し下げた主な要因は二つあった。

  • 政府の補助金で電気代・都市ガス代が下がった
  • コメの値上がりが前年ほどの勢いではなくなってきた

一方、全国2月の「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」は前年同月比2.5%上昇だった。制度要因やエネルギーの影響を除いた指標は、なお高めで推移している。

日銀が「制度要因を除くCPI」を公表し始めた意味

2026年3月26日、日本銀行は Indicators for Core CPI として、制度要因を除いた参考指標の公表を始めた。

ここで日銀が除外対象として明示しているのは、消費税、教育無償化、携帯電話料金引き下げ、旅行支援、そしてガソリン・電気・ガス料金の補助金だ。

この動きは、補助金の影響で総合CPIの数字が実態より低く見える可能性を、日銀自身が強く意識し始めたことを示している。3月の東京CPIについて日銀が直接「安心材料ではない」と言ったわけではないが、少なくとも見かけの数字だけでは基調を測りにくいという問題意識は明確ににじんでいる。

ガソリンは前年比マイナスでも、足元ではすでに反転している

今回の数字でもう一つ見落としやすいのが、ガソリンの動きだ。

3月のガソリンは前年同月比1.0%の下落となった。ただ、速報報道では前月比で大きく反発し、16.0%上昇したと整理されている。前年同月比だけ見れば「まだ下がっている」ように映るが、足元ではすでに反転が始まっている。

背景にあるのは中東情勢の緊迫化だ。AP報道では、イランをめぐる軍事的緊張の高まりで原油価格が1バレル100ドルを超え、ホルムズ海峡を通る商業輸送が大きく鈍ったとされる。世界の石油海上輸送の大きな部分を担うこの海峡の混乱は、エネルギーコストを通じて各国の物価を押し上げる圧力になる。

エネルギー価格が上がっても、家計に波及するまでには時差がある。まずガソリンや灯油が上がり、次に物流コストや包装材コストを通じて、食料品や日用品へと遅れて広がる。今月の数字が低めでも、数か月後の物価を楽観できる根拠にはならない。

食料高止まりは続いている

見出しの「1.7%」が目立つ一方で、食料品の値上がりは収まっていない。「生鮮食品を除く食料」は前年同月比4.9%上昇と高止まりした。

主な品目では、コーヒー豆が62.4%、チョコレートが28.9%、おにぎりが11.6%、米類が8.3%それぞれ上昇した。コーヒー豆やカカオは、世界的な供給制約や円安の影響を受けやすい輸入原材料だ。米類もピーク時ほどの急騰は一服したとはいえ、依然として前年を大きく上回っている。

生活実感として「物価が落ち着いた」と感じにくいのは、こうした食料品の継続的な値上がりが家計を直撃し続けているためだ。

東京CPIが全国の先行指標として見られる理由

東京23区のCPI速報は毎月末に公表され、全国CPIより先に出る。そのため日銀や市場関係者は、東京の数字を全国動向の先行指標として見ている。

今回3月31日に出た東京の数字は、4月後半に公表される全国3月CPIの先触れとして読まれる数字でもある。ただ、東京1.7%がそのまま全国の鈍化を意味するとは限らない。ガソリンの反転や食料高止まりが続く中、全国ベースで同じような鈍化が確認されるかはまだ分からない。

「2か月連続2%割れ」は安心材料なのか

日銀は2025年以降、段階的に金融引き締め方向へ舵を切ってきた。インフレ率が目標の2%を継続的に下回れば、次の利上げを急ぐ必要は薄れるという見方も成り立つ。

ただし今回の数字が示しているのは、単純な物価安定ではなく、補助金と原油高の綱引きだ。日銀が新たに公表し始めた制度要因除きの指標を踏まえると、基調的なインフレ圧力はなお高めに残っている可能性がある。

補助金が続く間は、物価の上振れが表面化しにくい状態にある。その一方で、エネルギー高という次の波はすでに近づいている。今の物価の落ち着きを、そのまま家計にとっての安心材料と読むのは早い。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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