ガソリンより見えにくく広がる──ナフサ不足が制服・食品・医療に同時に波及する理由

イラン情勢の緊迫化が生活の思わぬ場所に現れ始めている。学校の制服づくりに影響が出始めている。食品トレーやカップ麺の容器の材料が値上がりした。人工透析に使うプラスチック資材の供給に夏以降の影響が出るかもしれない。

これらは別々のニュースのように見えるが、同じ一本の上流でつながっている。それが「ナフサ」だ。


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ナフサとは何か

ナフサとは、原油を精製する過程で得られる石油製品の一種で、石油化学製品の出発点となる基礎原料だ。ガソリンや軽油が燃料として直接使われるのに対し、ナフサは化学工場でさらに分解・加工されて「エチレン」「プロピレン」といった素材に変わり、最終的にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのプラスチック素材になる。

これらは日用品、包装材、医療用品、繊維、塗料、電子部品など、生活のあらゆる場面に入り込んでいる。つまりナフサは、ガソリンと同じく石油から生まれるが、「燃料」ではなく「モノをつくる材料の材料」だ。

日本のナフサの調達先は、経済産業省の発表によれば中東が44.6%と最大で、国産は39.4%、その他が16%となっている(2024年ベース)。ただし、国産のナフサも中東原油依存が大きく、見かけの比率以上に依存が大きいのが実態だ。ホルムズ海峡の機能まひは、日本のナフサ供給の根幹に関わる問題だ。


生活の現場で最初に見え始めた影響

NHK記事によると、宮崎県都城市の制服メーカー・菅公学生服は現在、国内20か所の工場で中学・高校向けの制服や体操服を製造している。入学シーズン前の繁忙期、生地の裁断作業には「ポリシート」と呼ばれる透明のポリエチレン製シートが欠かせない。生地の上に重ねて空気を吸い出し、ズレを防ぐためのもので、透明でなければ仕上がりを確認できないため代替品がない。

このポリシートの入荷に影響が出始め、4月中旬以降は調達できるかどうか見通しが立たない状況だという。卸業者からは、入荷できても15〜20%程度の値上がりになると説明を受けた。

食品分野でも動きが出ている。食品トレーやカップ麺容器の材料「発泡ポリスチレンシート」の国内最大手・積水化成品工業(4228)は、4月21日出荷分から1キログラムあたり120円の値上げを発表した。ナフサを原料とするこの素材の原材料費が、原油高騰とともに上昇しているためだ。これが食品メーカーに転嫁されれば、食料品の小売価格にも影響しうる。


医療分野は「量の枯渇」より「優先配分」の問題

とりわけ優先度が高いとみられているのが医療用物資への影響だ。木原官房長官は3月30日の記者会見で、透析回路向け医療用プラスチックの供給について、医療機器メーカーから夏ごろ以降、一部供給に影響が出る可能性があるとの報告を受けていることを明かした。

これを受けて経済産業省は、日本化学工業協会と石油化学工業協会に対し、注射器、手袋、人工透析用資材など医療向け製品の安定供給を求める要請文を送った。

ただし、この要請の意味は「今すぐ足りなくなった」ということではない。石油化学工業協会(JPCA)によれば、主要な石油化学製品には現時点で2か月程度、ポリエチレンやポリプロピレンといった主要品目では3.5〜4か月程度の在庫があり、「直ちに供給困難ではない」としている。

問題は「量」ではなく「配分」と「流通の目詰まり」だ。在庫が存在しても、医療向けに優先して届くかどうかは別問題だ。一般に市場が逼迫すると、価格が高い用途に流れやすくなる。だからこそ政府は量が十分あるうちに、「医療など優先用途へ偏りなく流す」よう先手を打っているわけだ。経産省の担当者も「一部で目詰まりが起きているので、しっかり出してもらうようお願いしている」と述べた。


生活インフラにも波及──公営バスの燃料入札が不調

ナフサ由来の素材だけでなく、軽油の調達にも支障が出始めている。神戸市や京都市など全国6自治体のトップが国土交通省を訪問し、公営路線バスの燃料確保と財政支援を要請した。原油高を背景に軽油の入札が不調となり、随意契約でより高い価格での調達を余儀なくされる事態が相次いでいるためだ。神戸市の久元市長は「軽油価格は従来の倍ぐらいに上がっている」と述べた。


なぜガソリンより見えにくい形で「素材」に影響が出るのか

今回のナフサ危機が示すのは、エネルギー危機はガソリン価格より見えにくい上流素材の目詰まりとして表れやすい、という構造だ。

ガソリン価格は政府の補助金や備蓄放出によって可視化・管理されやすい。しかし、ナフサから派生する中間素材は、個々の企業の調達、在庫管理、流通ルートに分散しているため、問題が表面化しにくく、政府も一元管理しにくい。制服メーカーのポリシートも、食品トレーの素材も、透析用プラスチックも、見た目は全く違う製品だが、同じナフサという川上でつながっている。その川上が不安定になると、川下に広がる影響は想像以上に多岐にわたる。

石油化学工業協会は現時点を「極めて高い緊張感をもって注視している段階」と表現している。直ちに不足するわけではないが、事態が長期化すれば在庫は減る。その前に医療などの優先用途を守る体制を整えるのが、政府の現在の動きだ。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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