与党が新年度予算案の年度内成立を断念した。ただ、日本の憲法には「自然成立」という仕組みがあり、参議院が一定期間内に議決しなければ、衆議院の議決がそのまま国会の議決となる。それなら急がなくてもよいのでは、と思う人もいるかもしれない。
しかし現実は、暫定予算の成立と参議院での集中審議をめぐる攻防が続いている。なぜか。今回の混乱を読み解くには、予算をめぐる三つの制度の関係を理解する必要がある。
「自然成立」とは何か
日本国憲法第60条は、予算の審議について次のように定めている。衆議院が可決した予算を参議院が受け取ってから30日以内に議決しないときは、衆議院の議決が国会の議決となる。これが「自然成立」のルールだ。
参議院が採決を先送りしても、一定の日数が過ぎれば予算は成立する。今回の場合、自然成立が見込まれるのは4月11日だ。では、それまで何も問題ないのかといえば、そうではない。
4月1日から支出が止まれば社会は動かない
問題は、新年度が始まる4月1日から自然成立の4月11日までの「空白の11日間」だ。
この間も、社会保障費の支払いや地方交付税交付金の交付、政府機能の維持に必要な支出は止められない。本予算が成立していない以上、その根拠がなければ支出できない。これを解決するのが「暫定予算」、いわゆるつなぎ予算だ。
暫定予算は本予算の代わりではない。本予算成立までの必要支出の法的根拠を与えるためのものだ。今回も国会では、社会保障費や地方交付税が盛り込まれた暫定予算が成立し、国民生活への直撃は当面避けられる見通しとなった。
なお、暫定予算は異例の措置ではあるが、過去にも平成8年度や24年度など複数回組まれた実績がある。制度としては想定外の運用ではない。
自然成立があっても、参院審議には「政治的意味」がある
では、どうせ自然成立するなら、参議院での審議はただの時間稼ぎなのか。そうとも言い切れない。
野党の立憲民主党は、参議院予算委員会での集中審議の開催と、高市総理大臣の出席を求めている。首相が集中審議の場に出るかどうか自体が、参院審議の実質性の象徴となっている。斎藤国会対策委員長は「高市総理大臣は『働いて、働いて、働いて』と言っていたのだから集中審議にも出てきて参議院の場でも働いてもらう必要がある」と述べた。
予算が最終的に成立するとしても、首相や閣僚が参議院の場で説明責任を果たすかどうかは、政府への信任や野党の存在感に直結する。自然成立の日程が確定しているからこそ、「その前に何日分の審議を確保できるか」という駆け引きがより鮮明になる。今回の与野党攻防は、予算の中身をめぐる争いに加えて、参院審議の実質性をめぐる政治の局面でもある。
「年度内成立断念」は何を意味するか
与党・自民党の磯崎参議院国会対策委員長は、「年度内成立は断念することになるが、国民生活を考え、一日も早い成立をお願いしたい」と述べた。与党としては、暫定予算で当面の支出は確保しつつ、4月11日の自然成立を待つか、その前に参議院の議決を得るかを野党との日程協議で詰める構図だ。
年度内成立を断念した政治的な責任論は別として、制度の面でいえば、今回の展開は「自然成立という安全弁が制度上用意されている」ことの表れとも言える。ただし、その安全弁を使うまでの11日間を埋める暫定予算と、その間の審議をどう設けるかが、年度をまたいだ日程協議の焦点となっている。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

