ホンダとソニーが共同開発を進めてきた電気自動車「AFEELA 1」と、その次期モデルの開発・販売計画が、2026年3月25日に中止となった。
「EV市場が減速したから」というのが表向きの説明だ。しかし実態はもう少し複雑で、単純にEVブームが冷えたという話ではない。この中止の本質は、ソニーが「デジタル体験の場としての車」を設計し、ホンダがそれを量産するという構造が、ホンダ本体の戦略転換によって土台ごと崩れた——そこにある。
2022年に産声を上げた「役割分担型EV」
ソニーとホンダが共同会社「ソニー・ホンダモビリティ」を設立したのは2022年のことだ。
この提携の面白さは、両社が対等に「一緒に車を作る」のではなく、明確な役割分担を持っていたことにある。ソニーは、センシング技術(カメラやレーダーなど周囲を認識する技術)、車載ソフトウェア、映画・音楽・ゲームなどのコンテンツ体験、そしてユーザーインターフェースを担う。ホンダは、車体の設計・製造、量産工場、品質管理、法規制対応を担う。
いわば「ソニーがスマホのOSとアプリを作り、ホンダがハードウェアを組み上げる」に近い発想だ。その組み合わせから生まれようとしていたのが「AFEELA 1」だった。
「クルマでPlayStationを体験する」という発想
AFEELA 1 は、単なる電気自動車ではなかった。車内の大型ディスプレー、立体音響、AIエージェント、ゲームや映像との連携——スマートフォンやPlayStationに近い感覚で車を「デジタル体験の場」として再定義しようとする試みだった。
3月上旬まで、準備は着々と進んでいた。フリモント(カリフォルニア州)には「AFEELA Studio & Delivery Hub」が開設され、予約者への納車拠点として機能する予定だった。人気レーシングゲーム「グランツーリスモ7」との連携企画も発表され、CESや音楽イベントへの出展など、ソニーらしい派手な露出も続いていた。
フリモント拠点開設など直近の販促強化から計画中止まで、わずか2〜3週間の出来事だ。
崩壊の引き金はホンダの大転換
では、なぜこれほど急に止まったのか。
3月12日、ホンダは北米向けに予定していた3台のEV——「Honda 0 SUV」「Honda 0 Saloon」「Acura RSX」——の開発・投入中止を発表した。さらに、EV戦略の見直しに伴う損失が最大2兆5000億円に達する見通しも明らかにした。
これが今回の AFEELA 中止の直接の背景とみられる。ホンダとソニーの共同会社は、AFEELA 中止の理由として「ホンダの技術や工場などを活用することが困難になった」と説明している。
構造として考えると明快だ。AFEELA という合弁EVは、最終的にはホンダの量産基盤——工場、製造ライン、品質保証体制——に乗って初めて実現するものだった。その土台となるホンダが北米を中心にEV投資の優先順位を大きく組み直した時点で、上に乗せる予定だったソニーの「デジタル体験EV」の前提も崩れた。
「市場の問題」か「商品の問題」か
海外メディアの論調は二つに分かれている。
一方は「外部環境が悪化したから」という見方だ。米国では、トランプ政権がEV優遇策の見直しや化石燃料規制の緩和を進め、EV需要の伸びが鈍化している。中国メーカーは低価格・高性能で競争力を高め、既存の自動車メーカーは計画の大幅見直しを迫られている。この観点では、AFEELA 中止は時代の流れの犠牲だ。
もう一方は「そもそも商品として難しかった」という見方だ。Wired や Car and Driver は、AFEELA 1 の弱点として、約9万ドル(日本円で約1,350万円前後)という高価格帯、完全自動運転には届かない運転支援、セダンという形状を挙げ、同価格帯で戦う Lucid Air や Mercedes EQS と比べて訴求力が弱かったと評価している。
どちらが「決定打」だったかは断定しにくい。ただ、外部環境の悪化がなければホンダが動かなかった可能性も高く、その意味では両者が絡み合った結果と見るのが自然だろう。
「EVは終わり」ではなく「量産の覚悟が問われた」
今回の中止が意味するのは「EVが終わった」ということではない。
むしろ、今起きていることは、各社がEV専業一本足から、ハイブリッド強化・地域別最適化・ソフト機能の重点化へと軸足を動かすプロセスだ。ホンダも「電動化を諦めた」のではなく、「どの市場でどのEVをいつ出すか」の優先順位を組み直している。
ただ、今回の件が残した教訓は明確だ。「ソフト主導のEV」であっても、最後の壁は量産と採算だ。どれだけ革新的な体験設計があっても、ハードウェアを大量に作り、コストを管理し、安全規制をクリアする自動車メーカー本体の戦略と覚悟がなければ、合弁も構想も成立しない。
「ソニーが設計し、ホンダが作る」という分業の夢は、片方の足が抜けた瞬間に崩れたように見える。それがこの件の核心だ。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

