原油高が変えたタイのモーターショー——日本勢はハイブリッドやe-POWER、中国勢はEV・PHEVで燃料代節約を競う

タイで3月25日から始まるバンコク国際モーターショー。日産、マツダ、そして中国のBYDや長城自動車が新車を並べるこの見本市は、今年に限っては単なるモーターショーではない。

イラン情勢を受けた原油高を背景に、「燃料代を抑えられる車」が大きな訴求軸の一つになっている。


目次

タイは日本メーカーにとって「重要な市場」以上の存在

まずタイがなぜ重要なのかを押さえておきたい。

タイは東南アジア有数の自動車生産拠点であり、トヨタ、日産、マツダなど多くの日本メーカーが工場を持つ。つまりタイで何が売れるかは、単に現地販売の話にとどまらず、ASEAN向けの生産戦略全体に影響しうる。

今回のバンコク国際モーターショー(第47回、3月25日〜4月5日)には、日本や中国など45のブランドが参加する。しかしその展示内容は、例年以上に一つの問いを意識したものになっている——「燃料代が上がった今、どの車が選ばれるか」だ。


日本勢の答え:「充電不要でEVのように走れる」

今回の展示を見る限り、日産はSUVやミニバンを中心としたハイブリッド車のラインナップを強化し、燃費性能の高さをアピールしている。目玉の一つはe-POWER搭載モデルだ。

e-POWERとは、エンジンで発電してモーターだけで走る独自の仕組みで、外部からの充電は必要ない。EVのようなスムーズな走り心地を持ちながら、インフラに依存しないという特徴がある。

東南アジアでは、EVの普及に必要な充電インフラの整備がまだ途上にある地域も多い。そうした市場では「EVほどの燃費ではないが、インフラなしで燃費を大きく改善できる」ハイブリッド・e-POWERが現実的な選択肢になりやすい。

マツダはタイ市場向けに新たな電気自動車(BEV)を披露し、ハイブリッド車も含めた電動車の拡充を進める方針を示した。日産がe-POWERという「ガソリン給油でOKなEV的な車」で来るのに対し、マツダは「タイで初めての純電気自動車」という新鮮さで勝負する形だ。日本勢の中でも戦い方は分かれている。


中国勢の答え:「安くて燃料費を抑えられるEV・PHEV」

大まかな傾向として、BYDや長城自動車といった中国メーカーは燃料価格の高騰を追い風にしている。彼らが力を入れているのは、コンパクトタイプのEVやプラグインハイブリッド車(PHEV)だ。

PHEVとは、外部から充電もでき、ガソリンでも走れるハイブリッド車のことだ。短距離の移動は電気だけで賄い、長距離はガソリンを使う、という使い分けができる。燃料費を抑えつつ、充電インフラが整っていない場所でも走れる柔軟性が特徴だ。

中国勢はタイ政府の補助制度(EV購入インセンティブ)にも積極的に対応し、現地生産投資を進めてきた。タイ市場でのEV販売は急増しており、2025年の1〜9月だけでBEV(純電気自動車)の新規登録が8万7000台を超えたとされる。販売現場では中国勢の攻勢が目立っている。


「タイの現実解」は、EVか、ハイブリッドか

では消費者はどちらを選ぶのか。実のところ、どちらか一方が圧倒する単純な構図にはなっていない。

原油高はEVの相対的な魅力を高めるが、タイ全土で充電環境が整っているわけではない。価格面でも、補助制度がなければEVはまだ割高感がある。そのため「今すぐ燃料代を減らしたい」という現実的な消費者には、充電不要でも燃費が大きく改善できるハイブリッドやe-POWERが選ばれやすい面もある。

マツダの現地販売会社のCEOは、NHKの取材に対し「原油の供給に加えて物流の混乱が貿易に及ぼす影響も懸念している。一刻も早く事態が収束してほしいが、先が見えない」と話した。

出典:NHK記事

この言葉は、タイ市場の今の空気をよく表している。EVシフトを進めたくても、原油高や物流コストの上昇で事業計画が揺れる。だから今回のモーターショーで各社が競っているのは、「最も先進的なEV」ではなく、「燃料代が高い今も、消費者に選ばれ続けられる車」だ。


タイ政府:BEV中心を維持しつつ、電動車全般へ裾野を広げる動き

タイ政府のEV政策も、変化の兆しを見せている。

これまでのEV普及策(EV3・EV3.5インセンティブ)は主にBEV(純電気自動車)を対象にしていたが、近年はPHEVやハイブリッド車向けの制度整備も進んでいる。輸出台数を国内生産実績として換算できる優遇措置の導入なども含め、BEV中心の政策を軸にしつつ、電動車産業全体の裾野を広げる方向で制度が調整されてきている。

これはタイが「EVの販売実験場」から「電動車の生産・輸出拠点」を目指す段階に入ってきたことを示している可能性がある。


まとめると

  • バンコク国際モーターショー(3月25日〜)は、原油高を背景に「燃料費を抑えられる車」が大きな訴求軸の一つになっている
  • 日本勢(日産のe-POWER、マツダのEV)は「燃費性能×使いやすさ」、中国勢(BYD、長城自動車)は安価なEV・PHEVで価格競争力を軸に攻める
  • タイは日本メーカーの生産拠点でもあり、ここで何が売れるかはASEAN戦略全体に影響する
  • タイ政府はBEV中心の政策を軸にしつつ、PHEVやHEV向けの制度整備も進めている

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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