北京のガソリン197円でも本当の痛みは工場にある——中国式価格統制が「誰かに」しわ寄せする構図

イラン情勢による原油価格の高騰を受け、中国政府は2026年3月24日からガソリンの基準価格を13%超引き上げた。北京ではレギュラーに相当するガソリンが1リットルあたり約197円となり、前回から21円ほど上昇した。

ただ、このニュースを「中国でもガソリンが高くなった」と読むだけでは足りない。今回の値上げの背景には、中国政府が国際原油高のショックを家計にそのまま流さず、一部を価格統制で吸収しようとしている構図がある。その一方で、石化・素材分野ではすでにコスト上昇の圧力が先行して強まっている。


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中国のガソリン価格は「市場価格」ではない

日本や欧米では原油高がおおむね早く店頭価格に反映されるが、中国では異なる仕組みが動いている。中国政府は10営業日ごとに国際原油価格の動向をもとにガソリン・軽油の基準価格を調整する制度を運用しており、完全な自由価格ではない。

さらに重要な点がある。国際原油価格が急騰した場合、中国政府はその上昇分をそのまま国内価格に転嫁しないことがある。NHKの報道によれば、政府は「国際的な原油価格の異常な上昇が国内に与える影響を緩和する必要がある」として、引き上げ幅を本来の半分程度にとどめたとしている。

今回の基準価格は1トンあたり9905人民元(約22万7000円)で、5回連続の引き上げとなり、2022年7月以来の高い水準だ。今回の運用では値上げ幅が本来より抑えられたと政府は説明しており、消費者が受け取る数字より実際の原油高は深刻だということになる。


家計より先に工場が悲鳴を上げている

家計への転嫁が抑えられる一方で、産業側ではすでにコスト上昇が先行している。その一例が、中国南部・広東省東莞のプラスチック素材メーカーの現場だ。

東莞は中国でもプラスチック素材を扱う企業が集積する地域だ。車の部品やパソコンのキーボードなどに使われるプラスチック素材を生産するある企業では、イラン情勢が緊迫化して以降、取引先からの注文が通常の約2倍に急増した。在庫や価格についての問い合わせも相次いでいる。

工場は24時間フル稼働に切り替えたが、それでも生産が追いつかない。通常は約3000トンある倉庫の在庫は3月18日時点でほぼ枯渇し、納品先が決まった200〜300トンが残るだけだという。集荷のトラックは多い日で1日20台ほどに増え、担当者は袋詰めと出荷作業に追われている。

この企業の幹部は「生産コストは上昇している。上昇幅は想定すらできないし、すでに常軌を逸している。ただ、取引先の安定を守らないといけないので、私たちが大もうけしているわけではない。生産コストが上昇すれば、日用品の価格にも変化が出てくるだろう」と話した。

なぜプラスチック企業が先に苦しくなるのか。プラスチックや化学素材は、原油そのものだけでなく、ナフサ、LPG、プロピレン、エチレンなどの中間原料を経由して価格が形成される。政府がガソリン価格を抑えても、石化原料や樹脂価格は先に市場で跳ねやすい構造を持っている。


価格を転嫁できない中小企業はさらに苦しい

東莞でプラスチック素材を仕入れて国内外のメーカーに販売する中小企業の社長は、こう話す。「昨年末は1トンあたり8000元前後だった素材が今では1万2000元を超え、4000元以上値上がりしている。今は在庫も少なく影響が出ている」。
出典:NHK記事

大企業と違い、規模の小さな中小企業には仕入れ価格の上昇分をそのまま顧客への価格に転嫁することが難しい。「顧客からすでに受けた注文は、信用が第一なのでたとえ赤字になっても納品しなければならない。今後は注文の量を減らしてもらうか、双方で協議して価格を見直す必要がある」と社長は語った。

少なくとも原料価格の影響を受けやすい中国の石化・素材流通の現場では、こうした圧力がすでに強まっている。


中国の価格統制は「万能の防波堤」ではない

政府が値上げ幅を半分に抑えても、国際原油価格の高騰そのものは消えない。今回の場合、石化・プラスチック産業を通じて製造業に先に届いており、制度的な抑制が続かなければ、遅れて消費者価格にも反映されていく可能性がある。

中国経済に詳しい丸紅中国の鈴木貴元経済研究チーム長は、「プラスチック製品や日用品の価格上昇が物価を押し上げ、これが長引くと購買力そのものがダメージを受けてしまい、節約圧力が強まって景気を冷え込ませてしまう」と述べ、現在の状況が長期化すれば消費や景気への打撃は避けられないという見方を示した。

中国経済はすでに不動産不況や消費の弱さ、企業収益の低迷という課題を抱えている。中国が輸入する原油のうち中東6か国からの輸入が4割以上を占めており、エネルギー価格の高騰が重なれば、家計の可処分所得の圧迫と企業コストの上昇が同時に進む。


日本への波及——「中国の工場減速は日本の輸出に響く」

このニュースが日本にとって他人事でない理由もある。

鈴木氏は「中国経済が減速すれば、人型ロボットなどの新しい技術から生まれる需要に響いてくる。日本は中国に工作機械や部品などを供給しているので、中国のハイテク需要が伸び悩んでくれば、日本からの機械輸出に結構なダメージが出てくるのではないかと懸念している」とも話した。

また、中国の自動車輸出の2割弱を中東が占めているとされ、中東市場の縮小は中国の輸出産業にも打撃になる可能性がある。

今回の「中国のガソリン価格引き上げ」というニュースは、イランから始まった原油高が中国の工場・家計・輸出を通じて広がっていく連鎖の一局面だ。中国景気の下押しが長引けば、日本の輸出産業にも波及しうる。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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