「休まない人」を評価する会社をやめたら、女性管理職が増えた——4月の法改正が問う、本当に変えるべきもの

2026年4月1日、改正女性活躍推進法が施行される。より多くの企業に、男女の賃金格差と女性管理職比率の「公表」が義務づけられる。

だが、数字を開示するだけで職場は変わるのか。宮崎県の製造業の事例は、問いに対するひとつの答えを示している。


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日本の女性管理職は13%。問題は「女性が少ない」ことではない

厚生労働省の調査によると、従業員10人以上の企業における課長級以上の管理職に占める女性の割合は、2024年10月時点で13.1%だ。男性の賃金を100としたとき、女性は75.8にとどまる。

この数字を「女性が職場に少ないから」と読むのは正確ではない。就業者全体に占める女性の比率は4割台半ばに達しており、女性が職場にいないわけではない。日本の問題は、「女性が働いていない」ことではなく、働いていても上の職位に届きにくいことにある。

内閣府の資料によると、役職別の女性比率は係長級23.5%、課長級13.2%、部長級8.3%と、昇進段階を経るごとに細くなっていく。海外では、最初の管理職への昇進段階で女性が落ちやすい構造を「ブロークン・ラング(broken rung)」と呼ぶ。日本でも似た構造が疑われており、問題は採用の入り口よりも、昇進の途中段階にあるとみられている。


4月に何が変わるのか——公表義務の拡大

改正前の女性活躍推進法では、男女の賃金格差の公表が義務づけられていたのは従業員301人以上の企業だった。4月の改正により、これが101人以上の企業へと拡大される。

同時に、女性管理職比率の公表も、101人以上の企業に新たに義務づけられる。また、改正法には「女性活躍推進は、女性の健康上の特性に配慮して行われるべきだ」という文言が明記された。法律に基づく企業向け指針では、生理休暇を取りやすい職場づくりや、治療・検診などさまざまな目的で取得できる休暇制度の整備が望ましい例として示されている。生理、不妊治療、更年期など健康上の課題がキャリアの節目に影響しやすいことを踏まえれば、こうした配慮は人材確保の視点からも意味を持つ。

この法改正の焦点は、「良い話をつくること」ではなく、数字を開示させることで、企業に経営課題として向き合わせることだ。


えびの電子工業の制度改革——「しっかり休む人」を昇進させる

宮崎県えびの市に本社を置く「えびの電子工業」は、自動車部品や電子部品を製造する従業員567人の製造業だ。厚生労働省の働き方改革事例サイトにも取り上げられており、同社の企業データによると2024年時点の女性管理職比率は32.5%に達する。

この数字には背景がある。2017年以前の同社では、長時間労働が評価の基準となっており、男性管理職の有給休暇取得率は平均26%にとどまっていた。その働き方を目の当たりにした女性社員の多くが、正社員やキャリア形成を自ら断念していた。制度が問題なのではなく、「長時間働ける人だけが管理職候補になる」という評価の前提が問題だった。

転換点となったのは2019年から始まった人事評価制度の見直しだ。同社は「有給休暇を取れている」「残業が適切に管理されている」ことを管理職への昇進条件に組み込んだ。2021年には「残業は月平均30時間未満」または「有給休暇は年10日以上」という数値目標を設けた。

制度を整えた後、会社がとった工夫は実践的だった。年間カレンダーで毎月1日の有休取得推奨日を設定するとともに、1人が複数の業務を担える「多能工化」を進め、特定の人が不在でもチームで業務を回せる体制を構築した。業務の属人化を解消することで、「誰かが休むと業務が止まる」という状況そのものをなくしたのだ。


女性管理職は5年で3倍近く。生産性も15%向上

評価制度と業務設計の両輪が回り始めると、変化が現れた。

育児や介護と両立できる環境が整ったことで、パート社員から正社員、そして管理職を目指す女性が増えた。2019年度に11%だった女性管理職比率は、昨年度に32%まで上昇した。厚労省の働き方改革事例によれば、有休取得率は80%前後まで改善し、男性の育児休業も推進している。

休むことを前提にした業務設計は、生産性も押し上げた。昨年度の時間あたり売上高(労働生産性)は、2019年度比で15%向上している。さらに、育児・介護との両立を魅力と感じて管理職求人に県外から応募する男性も現れているという。

女性を特別扱いしたのではない。「長時間働ける人だけが評価される」という昇進の前提を変えた——それが結果として、女性管理職の増加と人手不足の解消を同時にもたらした。


「女性活躍」は「全員向け」の職場設計と切り離せない

えびの電子工業の変化が示すのは、女性管理職を増やすことと、職場全体の働き方を変えることが、切り離せないという事実だ。

この点に関連して、有力な要素として指摘されるのが男性育休の取得状況だ。厚労省の2024年度調査によると、男性の育児休業取得率は40.5%と前年度から10ポイント以上伸びた。男性育休が進まない職場では、育児や家事の負担が女性側に集中しやすく、昇進候補として継続できる女性が減る傾向がある。「女性活躍推進」の取り組みが、女性だけに向いた施策に終わると、構造は変わりにくい。


数字を出したあと、企業が点検すべき3つのこと

4月からの改正法で、101人以上の企業は賃金格差と女性管理職比率を初めて公表することになる。だが、その数字を出すことはゴールではなく、点検のスタートだ。

① 最初の管理職への昇進段階で、男女に差が出ていないか
女性管理職比率が低い企業の多くは、部長・課長よりも「一般社員→係長・主任」という最初の昇進段階でつまずいている。このボトルネックを確認しないまま、管理職比率だけを追っても実態は変わらない。

② 男女の離職率・継続率に差がないか
育児・介護などのライフイベントを境に、女性社員が正社員やキャリア形成を断念するケースは多い。離職率・復職率・フルタイム復帰率を男女別に確認することで、どこで人材が失われているかが見えてくる。

③ 管理職候補層が実際に休めているか
えびの電子工業が示したように、「休めない職場」では、休みを必要とする人がキャリアを自ら諦める。昇進候補層の有休取得率や残業時間を点検することは、管理職パイプラインを太くするうえで直接的な意味を持つ。

人手不足が深刻化する時代に、「休まない人を評価する」文化を続けることはもはや採用リスクでもある。数字の開示は問いかけだ。答えを出すのは、制度と評価の設計を変える行動の側にある。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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