ブリュッセル連続テロから10年——「事件は終わっていない」遺族の声とEUが直面する新たな課題

2016年3月22日、ベルギーの首都ブリュッセルで爆発が起きた。空港と地下鉄の駅が標的になり、32人が死亡、340人がけがをした。

それから10年が経った2026年3月22日、市内で追悼式典が開かれた。遺族や関係者およそ500人が参列し、ベルギーのフィリップ国王は「あの悲劇的な日を決して忘れない」と述べた。

しかし、犠牲者の家族が口にしたことばは、「追悼」という言葉では収まらないものだった。


目次

あの日、何が起きたのか

2016年3月22日の朝、ブリュッセル国際空港で2つの爆発が相次いだ。その約1時間後、市内中心部にある地下鉄マールベーク駅でも爆発が起きた。

死者32人、負傷者は300人を超えた。実行犯はブリュッセルを拠点とする過激派ネットワークのメンバーで、2015年にフランスで130人以上が犠牲になったパリ同時多発テロとつながっていた。

爆発が起きたマールベーク駅は、EU(ヨーロッパ連合)の主要機関が集まる地区に近い。ブリュッセルはベルギーの首都であると同時に、EUやNATO(北大西洋条約機構)の拠点でもある。そのため、この事件は「ベルギー国内のテロ」にとどまらず、「欧州の中枢を狙った攻撃」として記憶されることになった。


「悪夢が続いていて、終わりが見えない」

追悼式典では、犠牲者への黙とうと献花が行われた。

事件で母親を亡くした30代の女性は「悪夢が続いていて、終わりが見えません。いま、憎しみが世界にまん延していることを不安に思います」と話した。

当時、爆発が起きた空港にいた50代の女性は「テロリストたちをいまも許すことはできません。残念ながらセキュリティーの面はあまり改善しておらず、テロはいつどこでも起こる可能性があります」と述べた。

「10年」という節目が意味するものは、記憶の定着だけではない。多くの遺族や生存者にとって、この10年は「事件が終わる」時間ではなかった。


刑事裁判は結審したが、支援は続かなかった

2016年の事件をめぐっては、2023年にベルギー史上最大規模とされるテロ裁判が開かれ、主要被告らに重刑が言い渡された。刑事司法の観点からは、大きな節目を迎えたといえる。

しかし、イギリスのGuardian紙は2026年3月の取材で、補償や年金をめぐる行政対応に問題が残っていることを報じた。けがによる就労不能の認定、補償額の再計算、長期的な医療費の支援——こうした手続きが長期化し、一部の生存者は「事件が10年たっても終わっていない」と感じさせられ続けているという。

重度のけがやPTSD(心的外傷後ストレス障害)は10年単位で続くことがある。そのため、テロ事件における被害者支援は、追悼の言葉だけでなく、行政的な継続支援が不可欠だとされている。


欧州全体の節目として

今回の追悼は、ベルギー国内の行事にとどまらない意味を持っていた。

EUでは毎年3月11日が「欧州テロ被害者追悼の日」とされている。2026年は、ブリュッセル事件から10年の節目として特にこの日が重視され、欧州委員会(EU全体の政策立案・実行機関)はEUレベルの式典をブリュッセルで開催した。

欧州委員会の内務総局は、この追悼を単なる回顧の機会とはとらえず、被害者への連帯とともに、次の脅威への備えを問い直す場として位置づけた。記憶を守ることと、対テロ政策を更新することを、同じ文脈でとらえているのだ。


EUが直面する「次の脅威」

10年前のブリュッセルの事件は、自爆テロという直接的な暴力だった。しかし、欧州委員会が2026年2月に発表した新たな対テロ政策「ProtectEU」が想定する脅威は、その形を変えている。

ProtectEUが挙げる新しいリスクには、インターネットを通じた過激思想の拡散、AI(人工知能)を使った攻撃の計画、暗号資産を使った資金調達、ドローンや3Dプリンタで製造された兵器などが含まれる。

欧州委員会は「テロは終わった問題ではない」として、若年層のオンライン過激化への対応を特に重視している。2016年型の大規模な自爆テロだけでなく、デジタル空間で形成される「見えにくい急進化」への警戒に軸足を移しているのだ。


記憶と政策をつなぐ追悼

10年前の事件がもたらした衝撃は、欧州の対テロ体制を変えた。国境管理の強化、EU間の情報共有の改善、テロ資金の追跡強化——こうした仕組みが、2016年以降に整備されてきた。

しかし、式典で語られた遺族の言葉が示すように、制度の整備が進んでも、被害者の痛みがそれに比例して薄れるわけではない。「いまも憎しみが世界にまん延していることが不安だ」という声は、過去への感情であると同時に、現在への警告でもある。

10年という時間は、事件を「歴史」に変えるには短すぎる。そしてEUが「次の10年」の安全保障政策を組み立てている今、追悼の場はそのまま、未来への問いかけになっている。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

目次