ホルムズ混乱が車にも波及へ——ナフサ供給不安で自動車部品調達にリスク

イラン情勢の緊迫化が、エネルギー分野を超えて日本の自動車産業にも影を落とし始めている。日本自動車工業会(自工会)の会長を務めるトヨタ自動車の佐藤恒治社長は3月19日の記者会見で、「影響が長引けば、当然、材料調達上の課題が増えていく」と述べ、部品材料の調達ルートを多角化する検討に入っていることを明らかにした。

ただし現時点では、部品不足による自動車の大規模な生産停止が起きているわけではない。これは「危機の初期シグナル」——今後の長期化を見据えた備えの段階だ。


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ガソリン高の陰で進む「もう一つの影響」

イラン情勢の影響といえば、真っ先に思い浮かぶのはガソリン価格の上昇かもしれない。しかし自動車産業が警戒しているのは、それとは別の経路だ。

焦点はナフサと呼ばれる石油製品にある。ナフサとは、原油を精製する過程で得られる軽質油で、石油化学製品の基本原料だ。これをもとにエチレンなどが作られ、さらに樹脂・ゴム・合成繊維へと加工される。自動車の製造では、バンパー、内装材、タイヤ関連素材、配線の被覆材など、実に多くの部品がこのナフサを起点とする材料から作られている。

ホルムズ海峡(ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ幅約50キロの海峡)が機能不全になると、中東産の原油だけでなく、ナフサや関連する石化原料の調達にも影響が及ぶ。ガソリン価格の上昇は生活者にとって見えやすい変化だが、製造業にとっては、ガソリン価格の上昇とは別に、ナフサなど石化原料の供給不安が重要な論点になっていると、国際メディアは報じている。


「作れない」と「届けられない」が同時に起き得る

佐藤社長が会見で示した懸念は、実は二つある。

一つ目は、部品の材料調達への影響だ。前述のとおり、ナフサを起点とする石化原料が滞れば、バンパーや内装部品などの素材価格が上がり、納期にも遅れが生じる可能性がある。佐藤社長は「複数ルートでの調達の振り替えも含めて、鋭意努力している」と述べており、代替調達先の確保を急いでいることをうかがわせた。

二つ目は、完成した車を中東に届けられない問題だ。ホルムズ海峡をめぐる混乱で、中東向けの完成車輸送にも支障が出る懸念が高まっている。佐藤社長は「中東は大変重要な地域だ」として、各社の生産状況と物流のキャパシティの調整に取り組む考えを示した。

つまり、事態が長引いた場合、日本の自動車産業は「材料が足りず車を作れない」と「作った車を届けられない」という二方向のリスクに同時にさらされる可能性がある。


一社だけの問題ではない

今回の動きは、トヨタや日本に限った話ではない。Reutersは、化学、鉄鋼、公共交通など日本の幅広い産業で中東発の供給リスクが広がっていると報じており、三菱ケミカルが減産・値上げを行い、JFEスチールが重油不足に直面しているといった事例を伝えている。また、インドの自動車業界でも中東情勢が部品サプライヤーに圧力をかけているとの報道もあり、ナフサ不足の懸念はアジアの自動車供給網に共通するテーマとなっている。

FT(フィナンシャル・タイムズ)も、日本や韓国の石化業界はもともと採算が厳しい状況にあり、今回のホルムズ混乱でナフサ不足が一段と深刻化していると伝えている。エネルギー危機というより、石化原料の逼迫が製造業の川下に波及するという点を重視する報道が、海外メディアでは目立っている。


「どれぐらい長引くか」が分岐点

佐藤社長自身が会見で語ったように、「どれぐらいこの状態が長引くかによって、対応が変わっていく」——これが現状の正直な評価だ。

短期で落ち着けば、材料の在庫や代替調達でしのげる可能性が高い。だが、事態が長期化すれば、部品価格の上昇や納車遅延が現実になるリスクは否定できない。具体的にどの部品が、どの程度の期間で影響を受けるかについては、現時点では見通せない部分が多い。

自動車は鉄だけでできているわけではない。ナフサを起点とする石化素材が静かに車の多くの部分を支えているという事実が、今回の情勢によって改めて浮かび上がっている。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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