イラン危機でもEUは脱ロシア路線を維持、問われる価格高騰への耐久力

「価格高騰の津波がヨーロッパを襲おうとしている。これはロシア嫌いたちの頑固で愚かな戦略が原因だ」——ロシアのドミトリエフ大統領特別代表は3月19日、SNSにこう投稿した。イラン情勢の悪化でエネルギー供給不安が世界に広がる中、ロシアがEU(欧州連合)の対ロ・ガス禁輸方針に強く反発した形だ。

しかし、EUは今のところ動じていない。ロシア産LNGを2026年末まで、パイプラインガスも原則2027年9月末までに停止する方針を維持している。その背景にあるのは、価格よりも安全保障を優先するという、ウクライナ侵攻以降のEUの基本姿勢だ。


目次

EUはなぜロシア産ガスをやめようとしているのか

2022年以前、EUはガス需要の4割超をロシアに依存していた。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を機に、EUはこの依存がエネルギーだけでなく外交・安全保障上の重大な弱点になると判断。「REPowerEU」と呼ばれる政策のもと、調達先の多角化と省エネを急いできた。

その結果、2025年時点でのロシア産ガスのEU輸入比率は13%程度まで低下したとされる。ウクライナ侵攻前の水準からは大幅に減らしたが、完全ゼロにはまだ至っていない。

なぜ一気に止められないのか。ガスはパイプラインやLNG(液化天然ガス)受入基地などのインフラと、長期供給契約が絡み合った複雑なエネルギー源で、原油のように港ならどこでも届けられる性質とは異なる。だから「段階的な禁止」という時間軸になっている。


ロシアが「中東危機の隙」を突く理由

ロシア側の今回の反発には、政治的な意図がある。

イラン情勢の悪化はホルムズ海峡の通航制約を招き、中東産のLNGや原油の供給を不安定にした。欧州はカタール産LNGに一定程度依存しており、ロイター通信によると、EUのLNG輸入の約9%がカタール産とされる。そのカタールもイランによる攻撃でLNG輸出能力の一部が停止している状況だ。欧州のガス市場は価格上昇圧力にさらされており、EUの首脳は電力税引き下げや補助金などの緊急措置を検討しているとロイター通信は伝えている。

この状況をロシア側は「脱ロシアという選択が間違いだったことの証明」として描こうとしている。「われわれのガスを排除したから欧州は苦しんでいる」という物語だ。

ただし、ロシア側のこうした主張は、自国のガス輸出回復という強い利害関係と一体のものであり、中立的な事実として受け取るのは難しい。


EUはなぜ今でも「脱ロシア」を維持できるのか

中東危機でガス価格が上がっても、EUが方針を変えない理由は何か。

一つは、「ロシア産ガスに戻ることのリスク」と「価格高騰のコスト」を天秤にかけたとき、前者の方が大きいと判断しているからだ。EU外相のカラス氏は、ロシアとの「安価なエネルギー取引再開」に否定的な姿勢を明確にしている。エネルギー安保を価格論理で崩せば、ロシアに外交的なカードを渡すことになるという認識だ。

もう一つは、EUが実際に代替手段の確保を進めていることだ。欧州委員会はイラン危機下で非ロシア産ガスを迅速に調達できるよう、一時的に認可ルールを柔軟化した。これは「脱ロシア方針を緩めた」のではなく、「脱ロシアを維持したまま、非ロシア産の確保を急いでいる」という動きだ。


エネルギーと和平が同時に揺れる構図

このニュースにはもう一つの側面がある。ウクライナ和平協議との絡みだ。

ウクライナのゼレンスキー大統領は3月19日、週末に米国で新たな協議を予定していると述べた。イラン情勢の影響で中断気味となっている米・ロ・ウクライナの3者協議の再開につながるかが焦点だが、ロシアが参加するかどうかや協議の具体的な内容については、現時点で明らかになっていない。

背景には、イラン情勢の悪化によってアメリカの外交・安全保障の注目が中東に集中していることがある。エネルギー市場、中東の軍事情勢、そしてウクライナ和平——これらが互いに絡み合い、影響し合っている構図が今の国際情勢だ。


EUの「3層のジレンマ」

整理すると、EUは今、3つの力のせめぎ合いの中にいる。

第1層:安全保障の論理——ロシア産エネルギーへの依存を断ち切り、外交上の弱点を消すという中長期の目標。これが「脱ロシア」方針の根拠だ。

第2層:価格高騰の現実——中東危機が代替供給源(中東産LNG)も揺るがし、短期的なエネルギーコストを押し上げている。市民や産業界への痛みは現実だ。

第3層:ロシアの政治的攻勢——価格高騰の責任をEUの対ロ政策に押しつけ、方針転換を迫ろうとするロシアの言説。

EUは現時点ではこのジレンマの中で「安全保障を優先し、価格対応は別途講じる」という立場を崩していない。しかし、エネルギー価格の高止まりが長引けば、この方針への国内圧力が強まる可能性もある。今後、どこまで「脱ロシア」を貫けるかは、中東情勢の行方と欧州のガス市場の動向に大きくかかっている。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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