日産自動車が、福岡県にある子会社工場「日産自動車九州」で3月中に約1200台の減産を行うことを決めた。
「減産」というと部品が足りないか、需要が落ちたか——と思うかもしれないが、今回の理由はどちらでもない。車は作れる。ただ、運べないのだ。
ホルムズ海峡の通航が大きく阻害され、実質的な閉塞状態となっていることで、中東向けの完成車を運ぶ船が止まり、工場や港に車が滞留し始めた。保管場所を確保するために、生産そのものを絞らざるを得なくなった——それが今回の減産の実態だ。
ホルムズ海峡が「詰まる」と何が起きるか
まず、今の状況を整理しよう。
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾と外洋をつなぐ非常に狭い海上ルートだ。世界の石油・天然ガス輸送のおよそ2割がここを通る。サウジアラビア、UAE、クウェートなど湾岸の産油国から出荷される原油のほとんどがこの海峡を経由する。
イラン情勢の緊迫化に伴い、ホルムズ海峡の通航が大きく阻害され、実質的な閉塞状態となっている。報道によれば、3月16日時点で中東からの原油輸出は少なくとも6割以上落ち込んでいるとされ、混乱は一時的な船便の遅れにとどまらない水準に達している。
石油・ガスの輸送が停滞しているだけでなく、海峡周辺を通るあらゆる海運が影響を受けている。日本の海運各社も早い段階でホルムズ周辺の運航を停止しており、完成車を運ぶ自動車船もその例外ではない。
「作れるのに減産」する理由
自動車の製造は、工場でラインを流せば終わりではない。
完成した車は、出荷先の市場ごとに仕分けられ、港に運ばれ、自動車運搬専用の船(自動車船)に積み込まれ、現地の販売網へと届けられる。この輸出の流れが止まると、工場や港のヤード(保管スペース)がみるみる埋まっていく。
スペースが埋まれば、新たに完成した車を置く場所がなくなる。置けなければ、ライン上の車を工場の外に出せない。だから部品の供給には問題がなくても、生産を止めるしかなくなる。
今回の日産の減産は、まさにこのメカニズムによるものだ。
中東向けSUVは守り、国内向けを調整
注目すべきは、減産の対象の選び方だ。
日産は、中東向けに輸出している大型SUVは減産しないと説明している。中東向けの大型SUVは収益性が高く、需要も安定しているためだ。
一方、減産の対象として想定されているのは国内向けのSUVなどだという。つまり、利益率の高い輸出車種を守るために、国内向けモデルが「調整弁」として使われている構図だ。
ただし、日産は「減産の規模や車種は変更する可能性がある」としており、今後の状況次第で対象が変わる可能性もある。
すべての中東向け車両を止めるのではなく、利益率の高い大型SUVを優先し、その分、国内向けなど他の車種で減産を行う構図だ。
トヨタも約2万台の減産計画
この問題は日産だけにとどまらない。
トヨタ自動車も3月末までに、中東向けに輸出する自動車の国内生産をおよそ2万台減産する計画を進めている。3月から4月の累計では約4万台規模になるとの報道もあり、1カ月単位での削減規模としては日産を大きく上回る。
日本の自動車大手2社が相次いで同様の対応を取り始めたことで、ホルムズ海峡の混乱が日本の製造業に与える影響が、エネルギーコストにとどまらず生産や物流面にまで広がりつつあることが明確になった。
日本の輸出製造業に影響が広がり始めていることを示す動き
現時点での減産規模は、日産1200台、トヨタ約2万台と、日本全体の生産規模から見ればまだ限定的だ。
しかし、ホルムズ海峡の混乱が続けば、影響の連鎖は広がる可能性がある。まず日本の海運会社が通航を止め、次に完成車の輸出が滞り、それが工場の保管制約につながり、減産へと波及する——今回の日産の動きは、その流れが実際に起き始めたことを示すものだ。
事態の長期化によって影響が中小のサプライヤーや他の業種にまで広がるかどうかは、今後の中東情勢の推移にかかっている。
まとめ——「作れるのに運べない」という新しい危機
今回の日産の減産が示しているのは、現代のグローバルサプライチェーンが持つ脆弱性だ。
かつてのリスクは「部品が来ない」「工場が動かない」という生産側の問題が中心だった。しかし今回は「輸送が止まる」という物流側の問題が生産を直撃している。中東という単一の地点が詰まるだけで、日本の自動車工場の生産計画が変わる——そのつながりの深さが、改めて浮き彫りになった格好だ。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

