車は売れているのに、利益が半減した
2026年3月10日、ドイツの自動車大手フォルクスワーゲン(VW)グループが2025年通期決算を発表した。数字を見てまず目を引くのは、売上高がほぼ前年並み(約3219億ユーロ)を維持しているにもかかわらず、営業利益が前年比53%減の88億7000万ユーロへと急落したことだ。税引後利益ベースでも大幅な減益となった。
「売れているのに儲からない」。この一見矛盾する状況こそ、今のフォルクスワーゲンが直面している問題の核心だ。
フォルクスワーゲンはどんな企業か
フォルクスワーゲンと聞くと、ドイツの大衆車ブランドを思い浮かべる方も多いかもしれない。しかし実態は、世界でも指折りの自動車グループだ。グループにはVWブランドのほか、アウディ(Audi)、ポルシェ(Porsche)、シュコダ(Škoda)、セアト/クプラ(SEAT/Cupra)、さらには商用車部門など複数のブランドが含まれる。
2025年のグループ全体の新車販売台数は約900万台(前年比0.5%減)。世界でトヨタや現代自動車グループと並ぶ規模だ。今回の決算は、この巨大な自動車連合全体の成績表にあたる。
なぜ「売れても儲からない」のか
売上が維持されているのに営業利益が半減した理由は、大きく3つの圧力が重なった結果とみられている。
① 中国での稼ぎが激減した
長年、VWにとって最大の収益源は中国だった。世界最大の自動車市場で高いシェアを持ち、そこから得た利益がグループ全体を支えていた。
しかし今、その構図が崩れつつある。中国国内ではBYD(比亜迪)をはじめとする地場の電気自動車(EV)メーカーが急成長し、価格と商品力の両面でVWを圧迫している。かつては「外国ブランド=高品質・高価格」というプレミアムが通用した市場で、いまは価格競争が激しくなっている。利益率の高い中国事業が縮むことで、グループ全体の収益が圧迫された。
② 米国の関税措置が重くのしかかる
VWが2026年の業績見通しを示す際に、わざわざ「現在の関税環境が続くことを前提」と断り書きをつけた。これは、米国・トランプ政権の関税政策が今後どうなるかによって、収益が大きく変わりうることを認めているということだ。
自動車は関税の影響を特に受けやすい産業だ。欧州で製造した車を米国に輸出する際に関税が高くなれば、価格競争力が落ちるか、利益が削られるかのどちらかになる。この不確実性は、2026年以降も続くリスク要因だ。
③ 欧州・ドイツ国内のコスト体質
自動車工場は、一度建てると固定費が重くなる産業だ。ドイツ国内では特に、人件費の高さや硬直的な労働慣行が収益を圧迫している。販売が少し鈍るだけで、固定費の重さが利益に直撃する。
この問題に対して、VWは2024年末に労使で合意した構造改革を進めており、ドイツで3万5000人超の削減を柱に、グループ全体では約5万人規模の人員圧縮が見込まれている。これは「新しい自動車への投資を続けながら、古い体制を縮小する」という痛みを伴う転換だ。
「再建中」のVWが2026年に期待すること
VWのブルーメCEO(Oliver Blume)は、今回の決算発表で「ビジネスモデルを新たな状況に適応させ、コスト削減に向けた規律ある取り組みを継続していく」とコメントした。
2026年の業績見通しとして、売上高は前年比0〜3%増、営業利益率は4.0〜5.5%の回復を見込んでいる。2025年の2.8%からは改善する見通しだが、いずれも「現在の関税環境が続く」という前提付きだ。
再建の柱は2つある。一つは引き続きの人員削減・固定費圧縮。もう一つは中国市場での新型車投入——現地メーカーとの競争に向け、新型車の投入を急ぐ計画だ。ただし、こうした施策が実際に利益率の改善につながるには、相応の時間がかかるとみられる。
これは「VWだけの問題」ではない
今回の決算が示すのは、フォルクスワーゲン1社の業績悪化にとどまらない、より大きな構図だ。
欧州の大手自動車メーカーは今、「中国市場での競争激化」「米国の通商政策リスク」「欧州域内のコスト負担と環境規制」という三重の圧力を同時に受けている。かつては「中国で稼ぎ、欧州で量を売り、世界規模の販売で競争力を維持する」というモデルが成立していたが、その前提が揺らいでいる。
同様の課題は、ステランティス(プジョー・オペル・クライスラーなどを傘下に持つ欧州自動車グループ)など他の欧州メーカーでも表面化しており、欧州の自動車産業全体が岐路に立つ構図が鮮明になっている。
日本企業や市場への示唆
VWの決算は遠い海外のニュースに見えるかもしれないが、自動車産業は日本経済とも無縁ではない。
トヨタ・ホンダ・日産など日本の自動車メーカーも、同じ構図——中国での競争激化と米国の関税リスク——に直面している。VWの対応が今後の自動車産業の再編の先行指標になる可能性があり、日本の自動車株や関連産業の動向を見る上でも注目に値する。
また、ドイツの自動車産業の不振は、欧州経済全体の減速にも波及する可能性がある。欧州は日本の輸出先としても重要な地域であり、間接的な影響が出ることも考えられる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

