音声解説
「あのカフェ」の運営会社が変わる
「カフェ・ベローチェ」「珈琲館」——街中でよく見かけるコーヒーチェーンを展開するC-Unitedが、外食大手コロワイドに買収されることになった。
買収額は約440億円。4月に手続きが完了する予定だという。店名や店舗がなくなるわけではないが、運営の主体が大きく変わる。なぜこのタイミングで、なぜコロワイドが——その背景を読み解くと、外食業界が今直面している構造的な課題が見えてくる。
コロワイドとはどんな企業か
コロワイドという社名は、飲食業界に明るくない人には馴染みが薄いかもしれない。だが、「牛角」「かっぱ寿司」「大戸屋」などの名前を聞けば、多くの人が「知っている」と感じるはずだ。これらはすべてコロワイドグループが運営する外食チェーンだ。
同社は回転ずし、焼き肉、居酒屋、定食など幅広い業態を手がける東証プライム上場の外食大手。今回、これにコーヒーチェーンという新たな業態が加わることになる。
一方、買収される側のC-Unitedは非上場企業で、「カフェ・ベローチェ」「珈琲館」「カフェ・ド・クリエ」などを中心に全国563店舗(2026年2月末時点)を展開している。従業員は約1万1,100人に上る。ロイターによれば、C-Unitedの2026年3月期の売上高計画は約358億円、営業利益は18億円とされている。売り手は投資会社のLongreach Groupで、コロワイドは同社から全株式を取得する形だ。
なぜ「カフェ」を買うのか
コロワイドがカフェチェーンの買収に動いた理由は、単純に「喫茶店を増やしたい」からではない。
いま外食業界が頭を悩ませているのは、食材費・人件費・光熱費の同時上昇だ。コーヒー豆、小麦、乳製品といった原材料の価格が上がり、最低賃金の引き上げで人件費も膨らんでいる。値上げで対応しようにも、消費者の財布のひもが緩んでいるわけではないため、価格転嫁にも限界がある。
そこで大手が取る戦略のひとつが、「業態の束」をつくって調達力を上げることだ。仮に寿司チェーンと焼き肉チェーンが同じグループにあれば、共通する食材(例えば醤油、食用油、米)をまとめて大量に仕入れ、単価を下げることができる。物流コストも統合すれば削れる。これが、異なる業態をまとめて傘下に収める「業態ポートフォリオ」という考え方だ。
コロワイドにとってカフェは、既存業態との「時間帯の補完」という意味も大きい。焼き肉や寿司の需要が集中する夕食の時間帯に対して、カフェは朝・昼・休憩の需要が厚い。同じグループ内でお客さんが使う時間帯を分散できれば、全体として収益の安定性が増す。
さらにコロワイドは2024年に洋菓子メーカーを買収しており、今回のカフェ買収で「自社のスイーツをベローチェで売る」という販路拡大も視野に入れているとみられる。M&Aは「店舗数の足し算」だけでなく、仕入れ・物流・商品開発をまとめて強くする手段でもある。
業界全体で相次ぐ「異業態M&A」
今回のコロワイドの動きは、業界単独の出来事ではない。外食業界では、異なる業態の会社を取り込む動きが続いている。
牛丼チェーン「吉野家」を傘下に持つ吉野家ホールディングスがラーメン業態への参入に動き、レストラン大手のすかいらーくホールディングスはうどんチェーン「資さんうどん」を2024年に買収するなど、大手が業態の幅を広げる動きが相次いでいる。
この背景には共通のロジックがある。原材料費と人件費が上がり続けるなか、「自分一社だけで耐えるより、束になって調達コストを下げる方が有利」という判断だ。単独では吸収しきれないコスト増を、グループの規模で吸収しようとする動きとも言える。
「ベローチェが変わる」のか
読者として気になるのは、「カフェ・ベローチェはこれからどうなるのか」という点だろう。
現時点でコロワイドが明らかにしているのは、ブランドを存続させ、相乗効果を図るという方向性だ。店舗数は全国563店。この規模のチェーンを急に変えることは現実的ではなく、少なくとも短期的にはブランドの個性が大きく変わる可能性は低いとみられる。
ただし、統合後に実際にシナジー(相乗効果)を生み出せるかは、これからの経営手腕にかかっている。カフェ業態は、価格帯や店の雰囲気、客層の違いがブランドの個性を形づくっている。物流や調達の効率化を進める一方で、その個性をどう守るか——異なる業態を一つの傘下に収める際に常に問われる課題だ。店の雰囲気や接客の質まで同質化が進むと、むしろ客離れを招くリスクもある。買収の成立と、買収の成功は別の話だという点は、外食M&Aの歴史が繰り返し示してきたことでもある。
この動きが示すもの
今回の買収で注目したいのは、コロワイドという一企業の話を超えた含意だ。
大手外食チェーンが異業態を次々と取り込むことで、外食市場は「大手グループ対中小独立店」という構図がより鮮明になりつつある。コスト上昇を吸収できる体力のある大グループと、そうでない単独チェーンの間の差は、今後さらに広がる可能性がある。
コーヒー一杯を注文するだけでは分からない経営の変化が、業界の水面下では着々と進んでいる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

