原油高でアジア各国が非常モード フィリピンは週4日出勤、タイは在宅勤務、インドでは火葬にも影響

音声解説(FPTRENDY.com)

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「市場の話」が、日常に入り込んできた

イラン情勢の緊迫化を受けた原油価格の上昇は、金融市場の話だけに収まらなくなってきた。

フィリピンでは政府機関の職員が週4日出勤に切り替え、タイでは政府が在宅勤務と冷房の温度制限を指示した。インドではガスを使った火葬を控える動きが出ている。いずれも、中東情勢の悪化を受けてエネルギーを節約しようとする政府主導の対応だ。

こうした対応が相次ぐ背景には、アジアのエネルギー構造そのものがある。


なぜアジアが特に打撃を受けやすいのか

アジアの多くの国は、原油や天然ガスを中東からの輸入に大きく頼っている。中東情勢が悪化すると、エネルギーの調達コストが上がるだけでなく、輸送ルートそのものへの不安も生じる。

多くの中東産原油・石油製品が通過するホルムズ海峡(イランとオマーンの間に位置する海峡で、世界の海上石油貿易の約20%相当が通過するとされる)が封鎖・通行困難になる事態を、市場は警戒している。価格の問題と物流の問題が同時に発生しうるため、アジアの輸入依存国は欧米以上に敏感に反応しやすい。

アメリカの調査会社「ムーディーズ・アナリティクス」のチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏は、原油先物価格が1バレル85〜90ドルの水準で続いた場合、世界のGDP(国内総生産)の成長率が今後1年間で0.3〜0.4%押し下げられる可能性があると指摘し、「特にエネルギーの輸入が多いアジアにとっては大きなマイナス要因だ」と述べた。


フィリピン——週4日出勤で燃料と電力を削る

東南アジアのフィリピンでは、3月9日から政府機関の職員に対して出勤日数を週4日に減らすよう指示が出された。

具体的な仕組みはこうだ。勤務時間は維持しつつ、①4日間の圧縮勤務、または②4日出勤+1日在宅勤務のいずれかを選ぶ形で運用する。通勤日数を減らすことで燃料消費を抑え、庁舎の照明・空調・エレベーターといった電力使用量も下げるねらいがある。警察、消防、病院で働く職員は対象外だ。

マルコス大統領は今月3日の時点で、フィリピンには約50〜60日分の石油備蓄があると説明したうえで、政府機関に電力・燃料消費の1〜2割削減を求めていた。

備蓄日数とは何か、ここで少し補足しておく。これは、新たな輸入が止まった場合に現在の消費ペースで何日間しのげるか、という目安だ。備蓄があるから即座に危機というわけではないが、政府が節約を急ぐのは「今ある備蓄を少しでも長く持たせる」ためだ。


タイ——在宅勤務、冷房27度、スーツ禁止

タイ政府は3月10日、政府機関や国営企業に対して、原則として在宅勤務を実施するよう指示した。公的サービスに支障がある場合は例外とされるが、踏み込んだ内容だ。あわせて、海外への視察や研修の中止、冷房温度を通常より高い27度に設定すること、スーツではなく半袖着用を呼びかけた。

タイ政府は今月5日時点で国内に95日分の石油備蓄があると説明している。フィリピン(50〜60日分)より多い数字だが、それでも先手を打って需要を抑えに来ているのは、「今は大丈夫でも、事態が長引いたときに備える」という判断と見てよさそうだ。


インド——LPG逼迫懸念が火葬場にも波及

インドでは、LPG(液化石油ガス)の節約をめぐる動きが、より生活に密着した場所で表れ始めた。LPGとは、ガスコンロや暖房に使われる圧縮された石油系のガスのことだ。

ロイター通信は、西部マハラシュトラ州プネにある液化石油ガスを使う18の火葬場で、3月9日からガスを使った火葬を控えるようになっていると報じた。LPGの需給逼迫への懸念を背景に、限られた燃料を生活に直結する用途に優先させようとする動きの一例とみられる。

インドは中東への原油依存度が高く、LPGやLNG(液化天然ガス)の供給リスクにも敏感だ。ただし、インド国内での対応の全体像については、報道で確認できた範囲に限られており、今後さらに情報が出てくる可能性がある。


「価格の問題」だけではない——不確実性が心理を冷やす

ザンディ氏はさらに、エネルギー価格の上昇がもたらす影響について、「金額的なものだけでなく感情や心理面にも大きく影響する」と述べた。「次に何が起きるかわからない」という状況は、消費者や企業の判断を慎重にさせ、景気を冷やしやすくなる、という指摘だ。

ガソリン代や電気代の上昇は家計を直撃し、物流費や航空運賃の上昇は企業のコストを押し上げる。それだけでなく、「この先どうなるかわからない」という空気が広がること自体が、消費や投資の手控えを生む。これが「不確実性の経済的コスト」といえる。


収束への期待も——ただし政府は動き続けている

一方で、金融市場では早期収束への期待感もある。アメリカのトランプ大統領が3月9日、CBSテレビのインタビューで「戦争はほぼ完了したようなものだ」と述べたことがきっかけだ。

ザンディ氏はこの発言を受け、「トランプ大統領は株式市場や国債の利回り、ガソリン価格の動向に非常に敏感なので、この紛争を早期に終結させることもあるだろう」と述べた。ロシアのウクライナ侵攻時とは異なり、今回はアメリカとイスラエルが攻撃の当事者であるため、「やめようと思えばやめられる」という構図が早期収束を可能にする面がある、という見方だ。

ただし、フィリピンやタイの政府が実際に職員の働き方を変え、インドで生活インフラへの影響が出始めている以上、現場レベルでは「情勢が好転するまでは節約を続ける」という姿勢が続く可能性が高い。市場の期待と実務の対応が乖離している局面ともいえる。


まとめ——原油高は「市場の話」を超えた

今回のアジア各国の動きが示しているのは、中東情勢に端を発した原油高が、株価や為替といった金融市場の話を超えて、行政の運営方法や人々の日常生活にまで影響を及ぼし始めているということだ。

備蓄日数には各国に違いがあり、対応の段階も異なるが、共通しているのは「いま動いておく」という姿勢だ。状況がこのまま長引くのか、早期に収束するのかによって影響の深さは大きく変わる。当面は、中東情勢とエネルギー価格の動向が、各国の政策と人々の生活に直接影響を与え続ける局面が続く可能性がある。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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