ONEがペルシャ湾発着貨物の予約停止 ホルムズ海峡リスクと日本への影響

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「船が出ない」という連絡

千葉県内のある倉庫に、中古車が並んでいる。

整備を終えて輸出を待つばかりだったその車たちに、今月、異変が起きた。「中東に向かう船が出港を取りやめる」という連絡が、船会社から届いたのだ。

東京に本社を置く中古車輸出会社の担当者、中野貴志さんは語る。「長期化するとオークションに出したり、国内で処分したりしなければならなくなります。一刻も早く船が動くのを願っています」

年間約8000台を輸出し、そのうち1割が中東向けというこの会社にとって、それは突然の異変だった。しかし、これは一社だけの話ではない。


日本の海運3社が下した決断

2026年3月2日、日本の海運大手3社――日本郵船、商船三井、川崎汽船――がコンテナ船事業を集約して設立した共同会社「オーシャン ネットワーク エクスプレス(ONE)」が、ある発表を行った。

ペルシャ湾を発着するコンテナ貨物の新規予約受付を、全面的に停止する。

理由として会社が挙げたのは、「船員や陸上スタッフの安全確保」だ。背景にあるのは、イラン情勢の緊迫化である。

この3社を統合したONEは、世界でも有数の規模を誇るコンテナ船会社だ。その巨大組織が、特定の海域への新規受け付けを止めるという判断は、物流業界に緊張が広がっていることを示す動きとなった。


「ホルムズ海峡」という世界の咽喉

ここで少し、地理的な背景を押さえておきたい。

ペルシャ湾は、サウジアラビア、クウェート、イラク、イランといった主要産油国が面する内海だ。そのペルシャ湾から外洋へ出るには、たった一つの出口を通らなければならない――それが、ホルムズ海峡である。

この海峡は、世界有数の重要な海上交通路だ。世界の海上石油輸送の相当量がここを通過する。液化天然ガス(LNG)の輸送においても、ホルムズ海峡は極めて重要な通路であり、米エネルギー情報局(EIA)によれば、2024年には世界のLNG貿易の約2割がここを経由している。

つまり、この海峡の安全が脅かされると、日本を含む世界各国のエネルギー供給に直接影響が及ぶ。日本は原油輸入の9割超、直近では95%前後を中東に依存しており、その多くがホルムズ海峡を通って運ばれてくるとされている。


「予約停止」と「航路閉鎖」は違う

ここで誤解しないでほしいのは、今回の措置は「新規予約の停止」であり、航路の完全閉鎖ではないという点だ。

ONEによれば、すでに輸送中の貨物や予約済みの貨物については、荷主と相談しながら個別に対応を進めているという。また、LNG輸送や自動車輸送など、コンテナ船以外の事業も荷主との間で個別に調整が続いている。

「コンテナ船」と「LNG船」「自動車専用船」は、実は全く別物だ。コンテナ船は家電や衣料品、機械部品など多様な雑貨を規格化された箱(コンテナ)に詰めて運ぶ。LNG船は液化天然ガス専用の特殊船、自動車専用船は完成車や中古車を積み込む専用の船だ。それぞれ運賃体系も契約形態も、安全管理の方法も異なる。

だから「コンテナ船が止まった=エネルギーが来なくなった」という話ではない。ただし、状況がさらに悪化すれば、その影響が他の船種にも及ぶ可能性は否定できない。


業界全体に広がる「リスクオフ」

ONEの判断は、孤立したものではなかった。

ロイター通信は、中国の大手海運会社COSCOも中東発着の新規予約を停止したと報じている。欧州の大手海運会社なども、追加の安全対応や料金設定の見直しに動いているという。さらに、ONEのCEOは、世界のコンテナ船隊の一部が今回の情勢の影響を受けていると述べたと報じられている。

つまり、これは一社の慎重な判断ではなく、主要な海運会社が横並びでリスクを避け始めたという状況だ。


現場の声、動かない車たち

話を冒頭の倉庫に戻そう。

中野さんの会社では、中東向けの中古車を「状況が改善するまで保管を続ける」方針だという。しかし、保管にもコストはかかる。売上にはならないのに、維持費だけが積み上がっていく。

中東向けに限らず、ペルシャ湾岸の国々――UAEやサウジアラビア、クウェートなど――は、日本の中古車の主要な輸出先のひとつだ。こうした現場レベルへの影響が今後どこまで広がるかは、現時点では不明だ。


「段階」を見極める目

このニュースで重要なのは、今がどの段階にあるかを正確に理解することだ。

現時点は「コンテナ船の新規予約が止まった」という段階であり、「すべての物流が止まった」わけではない。ただし、状況が長引けば、物流の滞留、運賃の上昇、保険コストの増大、そして最終的には輸入品の価格上昇が私たちの生活に及んでくる可能性がある。

専門家でなくとも、これを「遠い中東の話」と見過ごしてよい問題ではない。私たちが日々使う電気やガスのエネルギー源が、そしてスーパーの棚に並ぶ商品の一部が、このペルシャ湾とホルムズ海峡を通じてつながっているからだ。

船が動けないとき、世界はどこかで静かに詰まっている。


本記事は2026年3月5日のNHK報道、およびONEの公表、ロイター通信、米エネルギー情報局(EIA)などをもとに構成しています。中古車輸出会社の個別証言はNHK報道に基づくものです。

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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