「390円から」が55万円に——暮らしの緊急トラブルを狙う「レスキュー商法」の手口と対策

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深夜、トイレが詰まった

夜中の11時。トイレが詰まって流れない。翌朝まで待てる状況ではない。スマートフォンを手に「トイレ つまり 修理 近く」と検索すると、画面の上位に「最短30分で駆けつけ」「390円から」「見積無料」と書かれた業者の広告がいくつも並ぶ。

焦った状態で、一番目立つ広告をタップした——この判断が、思いがけない出来事の入口になることがある。

内閣府・消費者委員会の資料には、こんな事例が掲載されている。「390円から」という広告を見て業者を呼んだところ、短時間の作業のあとに「配管が古くて追加工事が必要」「このままでは再び詰まる」と次々と追加作業を提示され、最終的な請求金額は約55万円。「現金で払えば値引きする」と言われ、その場で支払ってしまった——というものだ。


急増する「暮らしのレスキュー」トラブル

こうした暮らしの緊急対応に関するトラブルは、近年、目立って増えている。

全国の消費生活センターに寄せられる相談情報を集約したデータベース(PIO-NET、資料ではPIO-NET2)によれば、「暮らしのレスキューサービス」に関する相談件数は、2020年度の2,419件から2024年度には4,614件へと増加した(内閣府消費者委員会による整理、2025年3月末時点の登録分)。

さらに注目すべきは、相談の中でインターネット広告が関与していた割合の変化だ。消費者委員会の整理によれば、2014年度には約15%だったこの割合が、2024年度には「確認できただけでも」約55%にまで上昇している。スマートフォンが普及し、緊急時に検索するのが当たり前になった生活習慣と、トラブルの増加が重なっている。


「レスキュー商法」とは何か

業界用語ではなく、消費者問題の文脈で使われるこの俗称は、トイレの詰まり、水漏れ、鍵の紛失、害虫の発生といった「緊急性の高い生活トラブル」に対応するよう見せかけ、実際には予告なく高額を請求する商法を指す。法律上の正式名称ではないため、行為の内容によって評価は変わる。すべてが違法とは言い切れず、問題となるかどうかは広告表示の正確さ、現場での説明の有無、契約書面の交付、金額の妥当性など、個別の事情による。

この商法が成立しやすい背景には、「緊急性」がある。トイレの詰まりや鍵の紛失は、夜間や一人のときに起きやすく、精神的な切迫状態が判断力を下げる。「早く解決したい」という気持ちが、比較や確認を後回しにさせてしまう。


「検索上位=信頼できる業者」ではない

スマートフォンで検索した際、画面の上部に表示されるのは、広告主が掲載し、検索事業者の審査を通った「広告」であり、公的機関による認定とは別物だ。消費者委員会も、検索上位に表示される広告はクリックされやすく、「信頼できる業者」と誤認されやすいページ設計が問題だと整理している。

「上に出てきたから大手だろう」「件数が多いから安心」という判断は、残念ながら根拠にならない。


現場で起きていること

実際の被害パターンを整理すると、いくつかの共通点が見えてくる。

まず、広告に記載された価格(「390円から」「基本料金〇〇円」)はあくまで出発点として提示され、現場では「詰まりがひどい」「配管に問題がある」「放置すると悪化する」などの説明を加えながら、追加作業が次々と重ねられていく。

次に、支払いを急かされることが多い。「現金なら値引きする」「今日中に振り込まないと正規料金になる」「クーリング・オフはできない」といった言葉が出る場合、消費者相談事例ではこういった「急がせ」の言葉がよく見られる。

業者が帰ってから金額を調べて初めて「高すぎる」と気づく——そのとき、すでに支払いを済ませてしまっているケースも少なくない。


トラブルを防ぐために:事前の備え

最も効果的な対策は「緊急事態になる前に動くこと」だ。

まず確認したいのが、すでに持っている連絡先だ。

  • 賃貸住宅の場合、管理会社や大家には緊急連絡先が設けられていることが多い
  • 火災保険や家財保険の「日常生活サポート特約」に修理対応サービスが付いている場合がある
  • クレジットカードの付帯サービスに、水回りや鍵のトラブル対応が含まれているものもある

これらを事前に確認しておくだけで、緊急時に検索に頼らずに済む可能性が高まる。

地元の業者を事前に調べておくことも有効だ。

地域の商工会や自治体の紹介リスト、知人からの口コミなど、検索広告以外のルートで信頼できる業者の情報を持っておくと、緊急時の選択肢が広がる。


業者が来てしまったら:現場での対処

やむを得ず見知らぬ業者を呼んだ場合、または業者がすでに来ている場合にできることがある。

作業前に見積書を受け取る

「作業内容と費用の内訳を書面で出してほしい」と伝える。このとき重要なのは、内訳だけでなく「総額(上限)」を作業前に確定させることだ。追加作業が発生する場合は、そのたびに再見積を求めることが、青天井の請求を防ぐ基本になる。口頭説明だけで進むと、後から「言った・言わない」になりやすい。消費者庁の資料も、業者到着後に「作業内容と料金をきちんと確認する」ことを重要な手順として挙げている。

その場での即決・即払いを避ける

「今すぐ決めないと間に合わない」「この値段は今だけ」という圧力があっても、一度冷静になる時間を取ることが重要だ。「家族に相談してから決める」「書面を確認してから連絡する」と伝えることで、状況を落ち着かせられる場合がある。

高額な現金払いに注意する

現金払いは領収書があっても後のトラブルになりやすい。可能であればカード払いにするか、高額な場合は一度保留にして相談窓口に連絡する。


支払ってしまったあとも、あきらめない

すでに支払いを済ませてしまっても、手がないわけではない。

消費者ホットライン「188」に電話する

「188(いやや)」は全国共通の消費者相談窓口で、最寄りの消費生活センターにつながる。「どう対処すれば良いか」を専門家に相談することができる。まず188に電話することが、次の一手を考える出発点になる。

クーリング・オフの可能性を確認する

「クーリング・オフ」とは、一定の条件を満たす取引について、契約後であっても無条件で解除できる制度だ(特定商取引法に基づく)。訪問販売に当たる取引であれば、契約書面を受け取った日から8日以内が目安とされている。

重要なのは、「自分から業者を呼んだ場合でも、クーリング・オフができる場合がある」という点だ。消費者庁の資料は、「安価な広告を見て修理を依頼したところ、高額な工事を勧誘されて契約した」「見積だけのつもりで呼んだのに、その場で契約させられた」といったケースで、クーリング・オフが認められる可能性があると例示している。

ただし、クーリング・オフの適用には要件があり、状況によって異なる。「できる場合がある」という理解に留め、具体的には188や消費生活センターで個別に相談することが勧められる。


「急いでいる状況」こそ、一歩立ち止まる

レスキュー商法の問題の核心は、被害者が「焦っているところを狙われる」という点にある。トイレが詰まった深夜、水漏れが止まらない朝、玄関の鍵を失くした帰り道——いずれも、冷静に比較や確認をするのが難しい状況だ。

だからこそ、「もしものとき」を想定した準備が効く。今日、保険証書を確認し、管理会社の緊急連絡先を調べておく。それだけで、いざというときに「焦って検索する」以外の選択肢が生まれる。


出典:内閣府消費者委員会「レスキューサービスに関する消費者問題についての意見」(2025年8月4日)、消費者庁チラシ「暮らしのレスキューサービスに関する悪質商法にご注意!」、消費者庁注意喚起(2025年7月31日)、国民生活センター(2025年2月18日)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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