首相訪米を前に──ワシントンで行われた日米の「地ならし」会談

2026年2月20日(現地時間)、ホワイトハウスの一室で、日米の安全保障担当者が向き合った。

日本側は、国家安全保障局長の市川恵一氏。アメリカ側は、国務長官のマルコ・ルビオ氏。約40分間にわたったこの会談は、双方にとって初めての対面だった。

表向きの議題は、3月19日にも予定されると報じられている高市総理大臣のアメリカ訪問に向けた協議だ。しかし、その場で交わされた言葉の重みは、単なる日程調整にとどまるものではない。日米が互いに何を重視し、何を確認し合おうとしているのか──ワシントンで行われたこの会談は、その輪郭を浮かび上がらせるものだった。


目次

「局長」という役職が意味するもの

市川氏の肩書きは「国家安全保障局長」だ。国内では名称が浸透していないが、この役職を理解することが、会談の意味を読み解く鍵になる。

国家安全保障局(NSS)は、外交・防衛・情報といったバラバラになりがちな政策分野を官邸の中枢で束ね、関係省庁の調整を行う司令塔だ。局長は、言わば「日本版のナショナル・セキュリティ・アドバイザー(NSA)」として、首脳会談の準備や危機への対応を仕切る立場にある。

つまり、市川局長がワシントンを訪れたこと自体、「首相が渡米する前に、日本の安全保障の総責任者が現地に乗り込んで土台を作る」という、外交上の定石にのっとった動きだ。


ルビオ長官が「二つの帽子」を持つ理由

日本側の発表によれば、ルビオ氏は現在アメリカ国務長官と安全保障政策担当の大統領補佐官を兼務している。この「兼務」は注目に値する。

国務長官は対外政策を担う外交のトップであり、大統領補佐官(安保担当)はホワイトハウスで国家安全保障全体を統合する職だ。通常、これらは別々の人物が担う。ルビオ氏が両方を兼ねているということは、日本側にとって「外交の窓口に話を通した」だけでなく、「ホワイトハウスの中枢と直接すり合わせた」という意味が加わる。同盟の実務において、これは小さくない違いだ。


「揺るぎない」という言葉の重み

会談後、日本側は「訪問が揺るぎない日米同盟の姿を改めて示す機会となるよう、緊密に連携していくことで一致した」と発表した。

「揺るぎない同盟」という表現は、外交文書や首脳発言に繰り返し登場する定型句だ。だが、あえて今この言葉が使われる背景には、それを内外に示す必要がある文脈がある。

トランプ政権下で同盟国に負担増を求める姿勢が指摘される中、日本は高市首相のもとで独自の防衛力強化路線を打ち出している。市川局長は今回の会談で、「高市首相は日本が主体的に防衛費を増額することに取り組む考えである」という立場を、改めてルビオ長官に伝えたという。

「言われたから増やす」ではなく「自らの意志で増やす」という姿勢を強調することには、日本が同盟の中で主体的な役割を担う意図が込められている。


三つの柱──「抑止」「地域」「経済」

会談で確認された合意事項は、大きく三つに整理できる。

一つ目は、同盟の抑止力と対処力の強化だ。「抑止力」とは、相手に「手を出せば損をする」と思わせる力のこと。「対処力」は、いざという時に被害を抑えて状況を立て直す力を指す。この二語が並ぶとき、平時からの備えと有事の実効性を同時に高めるという含意がある。

二つ目は、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現だ。これは条約や機構の名前ではなく、インド太平洋地域で航行の自由や法の支配を守り、力による現状変更を許さないという考え方の「旗印」である。日本が提唱し、アメリカが呼応する形で広まり、今や日米外交の共通言語になっている。

三つ目が、経済安全保障──とりわけサプライチェーンの強靭化だ。半導体、レアアース(希少金属)、エネルギーなど、現代の国家運営に不可欠でありながら特定の国や地域に依存しがちな分野をどう守るか。調達先を多様化し、同盟国間で供給網を束ね直すこの取り組みは、今や軍事と切り離せない安全保障の課題になっている。


3月に向けた積み上げ

今回の会談は、突然に始まったわけではない。

2月のミュンヘン安全保障会議では、茂木外相とルビオ国務長官が会談し、抑止力・対処力の強化、経済安全保障、首相訪米に向けた緊密連携を確認していた(日本外務省の整理による)。市川局長のワシントン訪問は、外相レベルで積み上げられた同じ文言を、安全保障の実務レベルでさらに深めるものだ。

3月19日とも報じられる首脳会談が近づくにつれ、日米の間では「言葉」と「議題」が積み上げられている。「揺るぎない同盟」とは、そうした積み上げの先に、あらためて言葉として示されるものだ。


参考:NHK報道(2026年2月21日)、日本外務省「ミュンヘン安全保障会議」概要、国家安全保障会議設置法

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

目次