3人に2人が「事実」と思った──選挙フェイク情報、信じてしまう理由と自分を守る方法

「マンションの値段が上がったのは、外国人が投機目的で買い占めているからだ」

この話を聞いたことがあるだろうか。今月行われた衆議院選挙の期間中、この情報はSNSやニュースサイトで広く出回った。調査では「誤りと判定された情報」として扱われたものの一つだ。しかし、この情報を見聞きした人のうち実に89.6%が「事実」と受け止めていたという。

東洋大学の研究チームが投票日直後に実施した調査で、この実態が浮かび上がった。選挙のたびに「フェイク情報に気をつけて」と言われるが、なぜ人はこれほど信じてしまうのか。そして、自分を守るためにできることはあるのか。


目次

調査が明らかにした「不都合な数字」

東洋大学の小笠原盛浩教授らの研究チームは、衆院選の投票日から3日間、全国の18歳から70代の男女およそ1800人を対象にインターネット調査を実施した。

調査対象は、選挙期間中に拡散し、報道機関などによって「誤り」と判定された代表的なフェイク情報5件だ。

結果は衝撃的だった。

  • 少なくとも1件に接触した人は約半数(51.4%)
  • 接触した人のうち、65%以上が「事実」と受け止めていた(情報によっては89.6%)

半数の人が何らかのフェイク情報に触れ、そのうちの3分の2以上が本当のことだと思っていた。これが、今回の選挙の情報環境の現実だ。


「SNSが悪い」では説明できない

フェイク情報の話になると、「SNSが元凶」という声が多い。しかし今回の調査は、その思い込みを崩す結果を示した。

フェイク情報を「最初に見聞きした媒体」を聞いたところ、1位はテレビ(32.7%)だった。ニュースサイト・アプリ(22.7%)、SNS(20.0%)がそれに続く。

念のため添えておくと、これはテレビ局が偽情報を意図的に制作したという意味ではない。候補者や関係者がSNSや演説で発した「真偽不明の情報」が、検証が間に合わないままテレビや大手ニュースサイトを通じて伝わっていた可能性があると、小笠原教授も指摘している。選挙期間が短く、報道の検証作業が追いつかない間に、情報が一人歩きしていくのだ。

「テレビで見たから信じた」という判断は、多くの人にとって自然なことだ。だからこそ、媒体の「信頼感」を利用したフェイク情報は、より危険な拡散力を持つ。


5件の中身──どの話が、どれだけ信じられたか

今回調査された5件の概要と、接触率・誤認率を整理しておく。

フェイク情報の内容接触率事実と受け止めた割合
マンション高騰は外国人の投機買いが原因44.4%89.6%
こども家庭庁を廃止すれば減税財源をまかなえる15.6%72.8%
中道改革連合の共同代表が特定発言をしたとする捏造10.7%72.9%
中道の街頭演説の聴衆動画はAI生成だ11.8%67.0%
高市首相の聴衆写真は渋谷カウントダウンのものだ5.9%65.1%

特に注目すべきは4番目だ。「演説に集まった聴衆の動画はAI生成だ」というのは、本物の映像を「偽物だ」と主張するタイプのフェイクだ。フェイク情報は「嘘の情報を本物に見せる」だけでなく、「本物の情報を偽物に見せる」という逆方向のものも存在する。これにより、何が真実かの判断がより困難になっていく。


なぜ人は信じてしまうのか

理由は一つではないが、背景にある仕組みを知っておくと、自分がなぜ信じやすい状態に置かれているかがわかる。

感情を揺さぶる情報は拡散しやすい

「外国人がマンションを買い占めている」という情報は、怒りや不安を刺激する。こうした感情的な情報は、インターネット上で反応されやすく、拡散されやすい。これは一般に「アテンション・エコノミー」と呼ばれる仕組みだ。ユーザーの「注目」を集めることがプラットフォームの収益につながるため、感情を動かすコンテンツが優先されやすいとされる。

見たい情報しか見えなくなる「バブル」

SNSのアルゴリズムは、自分の興味や過去の行動に合わせた情報を優先して表示する。結果として、自分と異なる意見や、事実を指摘するファクトチェック記事が届きにくくなる。この現象は「フィルターバブル」と呼ばれ、研究や実務の場でも広く指摘されている。こうした環境に置かれると、誤情報が補強され続けやすくなる。

「フェイク情報」にも種類がある

フェイク情報を一括りにしてしまうと、対策が難しくなる。

  • ミスインフォメーション(misinformation):悪意はなく、誤った情報を信じて広めてしまうケース。友人が「こんな話を聞いた」と共有するのがこれにあたる。
  • ディスインフォメーション(disinformation):意図的に作られた偽情報。特定の候補者を攻撃したり、有権者を混乱させたりする目的で流される。

今回の選挙では、この2種類が混ざり合って拡散した。


専門家はどう対処を呼びかけるか

小笠原教授は「何が事実で、何がうそか非常にわかりづらくなっている」と語り、次の点を強調している。

感情が揺り動かされる情報は、あえて真偽を判断しないことも大切だ

怒りや恐怖を感じたとき、すぐに拡散するのをやめる。これだけでも、誤情報の連鎖を止める効果がある。

また、研究者たちが個人レベルで推奨する判断の習慣として、以下のものが挙げられている。

  • 情報の出どころを確認する:官公庁の資料、候補者の公式発表、元の動画の投稿元など、一次情報に近いものへたどる
  • 画像・動画は「日時・場所・出どころ」の3点を確認する:切り抜きや別日の映像の転用が多い
  • 打ち消し報道にも注意する:「〇〇は誤りだった」という否定報道でも、見出しや引用の仕方によって誤った印象が残ることがある

制度と技術はどこまで対応できているか

国内の対応

総務省は今回の衆院選にあたり、SNS事業者に対してフェイク情報の削除申し出への迅速対応を要請した。この要請に際し、情報流通プラットフォームへの対処を定めた法制度(「情報流通プラットフォーム対処法」などとされる)にも言及があった。ただし一般に、こうした枠組みは誹謗中傷など権利侵害情報への対処の迅速化・透明化を主眼とするものとされており、選挙の政策デマを包括的に取り締まるものではないとみられる。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は今回の選挙期間中に26本のファクトチェック記事を公開した。ただし、デマの拡散速度と検証の速度の差は依然大きく、「追いかけているが、追いつかない」というのが現状とみられる。

海外の動向

EUは「デジタルサービス法(DSA)」を通じて、巨大プラットフォームに対してリスク評価や透明性確保、研究者へのデータ提供などを義務づけている。ドイツの裁判所がSNS事業者に選挙関連データの研究者への提供を命じた例もあり、「削除」より「透明性」を軸にした規制モデルが広がりつつある。


情報を「見る側」として何ができるか

研究者が口をそろえるのは、「全部を検証しようとしなくていい」ということだ。大量の情報が流れる中で、すべてを確かめることは現実的ではない。

だからこそ、「感情が強く動いたときに立ち止まる」「出どころを確認する習慣を持つ」「信頼できる媒体を日常的に確認しておく」といった、シンプルだが継続できる防御が有効だ。

選挙という民主主義の根幹を担う場が、フェイク情報に侵食されやすいことが今回の調査で改めて示された。政治への関心が高まる時期ほど、感情を揺さぶる情報が流れやすい。

「あの話、本当だったの?」と後から気づくより、一度立ち止まる習慣が、一票の重さを守ることにつながる。


参考:NHK報道(2026年2月21日)、東洋大学・小笠原盛浩教授らによる調査、日本ファクトチェックセンター(JFC)公開情報、総務省関連要請、EUデジタルサービス法(DSA)関連報道

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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