米最高裁が「トランプ関税」を止めた——それでも世界に10%追加関税が来る理由

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「関税が違法」と最高裁が言ったのに、なぜ関税は続くのか

2026年2月20日、アメリカの連邦最高裁判所が歴史的な判断を下した。トランプ大統領が推し進めてきた「相互関税」などの法的根拠が、最高裁の9人の判事のうち6人によって否定されたのだ。

ニュースを聞いた多くの人が思ったはずだ。「ではトランプ関税はなくなるのか?」と。

答えは「否」だ。トランプ大統領は判決直後、別の法律を根拠に世界一律10%の追加関税を最長150日課す方針を表明した。トランプ氏自身は「約3日で発動する」と述べており、数日以内に新しい枠組みが動く可能性がある。

今回の出来事を理解するには、アメリカの通商政策を支える「法律の構造」から紐解く必要がある。


そもそもトランプ関税の「根拠」は何だったのか

トランプ大統領が第2期政権で発動してきた広範な関税措置——日本を含む約70カ国・地域を対象にした「相互関税」など——の法的根拠は、**IEEPA(国際緊急経済権限法)**という法律だった。

IEEPAとは 「国家安全保障や経済に対して異例かつ重大な脅威がある場合、大統領が緊急事態を宣言すれば、事前の調査なしに輸出入を規制できる」という枠組み。本来は制裁措置や資産凍結といった「非常時の対応ツール」として設計されていた。

トランプ大統領はこのIEEPAを使い、「世界各国との貿易不均衡はアメリカへの脅威だ」と宣言し、議会の承認を経ずに関税を発動し続けた。

しかし、これに異議を唱えたのが米国内の小企業と複数の州(オレゴン州を含む)だった。「大統領の権限を越えている」として提訴。一審・二審でも違法判断が出ており、今回の最高裁もその流れを支持した形だ。


最高裁は何を「ノー」と言ったのか

判決のポイントは一点に絞られる。**「IEEPAは、大統領に広範な関税を課す権限を与えていない」**という判断だ。

背景にあるのは、アメリカの憲法の原則——「関税・課税は本来、議会の権限」という考え方だ。巨大な経済的・政治的影響を持つ政策を、議会の明確な承認なしに大統領が単独で動かすことを認めるべきではない、という論理(法律の世界では「重大問題法理」と呼ばれる考え方に通じる)。

最高裁の判断は6対3。保守派とリベラル派の枠を超えた多数意見だったことが、この判決の重みを示している。

そして重要なのは、最高裁が否定したのは「関税という政策そのもの」ではなく、「IEEPAを根拠にして広範な関税を実行するやり方」だった、という点である。


トランプ大統領の「即応策」:通商法122条

判決を受けてトランプ大統領は記者会見を開き、特定の判事を「国の恥」と激しく批判しながらも、すでに次の手を打っていることを明かした。

「代替手段がある。素晴らしい代替手段だ」

その手段が、1974年通商法122条だ。

通商法122条とは アメリカが国際収支上の重大な問題に直面した場合に、大統領が最大15%・最長150日間の追加関税(輸入課徴金)を課すことができるという規定。IEEPAと比べ、発動のハードルが低く、迅速に動けるのが特徴。一方で、期間に明確な上限があるのが制約だ。

トランプ大統領はこれを根拠に、世界一律10%の追加関税を課す命令に署名する意向を表明した。

つまり、起きていることは「関税の廃止」ではなく、**法的根拠の”付け替え”**だ。IEEPAという枠組みが使えなくなったため、122条という別の棚から武器を取り出した、という構図である。


「一律10%」は序章に過ぎない——次の本命は301条・232条

ただし、通商法122条には150日という期限がある。これは「短期のつなぎ」だと専門家は見ている。

では、その先はどうなるのか。

トランプ政権はすでに、より長期的・持続的に使える別の関税ルートへの移行を準備している。

通商法301条は、相手国の「不公正な貿易慣行」をUSTR(米通商代表部)が調査し、是正されなければ追加関税などで対抗する枠組みだ。手続きには時間がかかるが、期間の制約なく長く続けられるのが特徴。政権はすでに複数の調査開始を表明している。

通商拡大法232条は、鉄鋼やアルミの関税でおなじみの「安全保障を根拠にした関税」だ。こちらはIEEPAとは別枠で維持されており、拡張が示唆されている。

つまり、今後の流れはこうなる。

IEEPA関税(違法判断で制約)→ 通商法122条で一律10%(150日の短期)→ 301条・232条で国別・品目別の長期関税へ再設計

関税の「税率」が問題なのではなく、どの国の、どの品目が次に狙われるか——それが企業や市場にとっての本当の焦点になっていく。


もう一つの火種:徴収済み関税の「返金問題」

この騒動には、もう一つ見落とせない論点がある。**還付(返金)**の問題だ。

違法と判断されたIEEPAを根拠に、これまで実際に徴収されてきた関税は相当な規模にのぼる。ペンシルベニア大学ウォートン校の予算モデルによれば、還付対象は最大1750億ドル超に達する可能性があるという(あくまで上限推計で、今後の制度設計次第で変動する)。

企業からすれば、「過去に払わされた税金が返ってくるかもしれない」という話だが、実態はそう単純ではない。還付の制度設計はまだ整っておらず、申請手続き、対象範囲、スケジュールのいずれも不透明だ。訴訟が増加する可能性もあり、企業の会計・キャッシュフロー管理に新たな混乱をもたらすリスクがある。

皮肉なことに、市場や企業が最も嫌うのは「関税の高さ」よりも「先が読めない不確実性」だ。今回の判決で一つの局面は区切られたが、次の局面の不透明さは依然として高い。


日本への波及——150日が「交渉の締め切り」になる

日本にとってこの問題は他人事ではない。

直接的には、対米輸出の採算への影響がある。一律10%の追加関税が上乗せされれば、自動車や電子部品など日本の主力輸出品のコスト構造が変わる。価格転嫁するのか、米国内での生産比率を上げるのか、サプライチェーンを再編するのか——企業は判断を迫られる。

間接的には、アメリカでのインフレ再燃懸念が金利見通しを動かし、それが株式市場や為替レートに波及するルートもある。

そして政治的には、122条が定める「150日」という期限が、日米間の貿易交渉における事実上の締め切りになり得る。期限があるからこそ、その間に日本政府・企業が交渉のテーブルで動きやすくなる側面もある。


今後150日で追うべきチェックリスト

この問題はこれで終わりではない。以下の動きが、今後の焦点になる。

  • 10%関税の発効日と適用範囲——除外品目や猶予措置が出るか
  • 301条の調査対象——どの国の、どの産業・品目が狙われるか
  • 232条の拡張——安全保障関税の対象が広がるか
  • 還付の制度設計——申請の方法、期限、対象範囲が明確になるか
  • 150日の期限の扱い——議会が延長を認めるかどうか

まとめ:「関税が止まった」ではなく「関税が組み替えられた」

最高裁の判決は確かに歴史的だ。しかし、それはトランプ政権の関税政策の「終わり」を意味しない。

IEEPAという武器が使えなくなった代わりに、通商法122条・301条・232条という別の武器が順次投入される。関税の「根拠法」が変わっただけで、政策の方向性は変わっていない——それが現在地だ。

私たちが問い続けるべきは、「関税はあるかないか」ではなく、「次に何が、どこに、いつ来るか」だ。


用語ミニ辞典

IEEPA(国際緊急経済権限法) 非常事態時の規制・制裁のための枠組み。今回、広範な関税の根拠としては否定された。

通商法122条(1974年) 国際収支上の重大問題への対処などを理由に、最大15%・最長150日の追加関税(輸入課徴金)を課せる短期権限。

通商法301条 相手国の不公正貿易慣行をUSTRが調査し、是正が得られない場合に追加関税などで対抗する枠組み。長期化し得る。

通商拡大法232条 安全保障を根拠にした関税措置の枠組み。鉄鋼・アルミなどで活用されてきた。

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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