首都圏の新築マンション平均価格が8,383万円、東京23区は1億2,126万円。不動産経済研究所が公表した最新データは、改めて首都圏の住宅価格の高さを示した。
ただし、この「平均価格」は、日用品の物価のように同じ商品を比較した結果ではない。数字をそのまま受け取ると、相場の温度感を取り違える可能性がある。この記事では、2つの数字が示す意味を順に整理する。
まず確認したい「2つの数字」の違い
今回の公表値は、首都圏(1都3県=東京・神奈川・埼玉・千葉)の平均が8,383万円(前年比+14.2%・9か月連続上昇)、東京23区は1億2,126万円(前年比+15.8%)だった。

両者の差は**3,743万円(約3,700万円)**ある。同じニュースに並んでいるため混同しやすいが、対象範囲がまったく異なる。
首都圏平均は23区を含む一方、神奈川・埼玉・千葉など相対的に価格帯が低いエリアも含めた平均だ。23区の高額物件が多い月は首都圏平均を押し上げやすく、23区外の供給比率が高い月は平均が落ち着きやすい。
したがって、記事を読む上では**「自分が探しているエリアが、23区に近いのか、23区外に近いのか」**を分けて考えることが出発点になる。
「平均価格」という数字の落とし穴
新築マンションの平均価格は、その月に売り出された物件の**”顔ぶれ”**によって大きく変わる。
- 都心の高額タワーマンションが多い月 → 平均が跳ね上がりやすい
- 郊外の中価格帯物件が中心の月 → 平均が落ち着きやすい
今回の発売戸数は628戸で、供給量としては小さい。参考として、前月(2025年12月)の発売戸数は5,468戸だった。サンプル数が少ない月ほど、少数の高額物件が平均に与える影響が大きくなる。クラスの人数が少ないほど、1人の高得点が平均点を大きく引き上げるのと同じ原理だ。
平均8,383万円という数字は首都圏の目安ではあるが、それだけで「価格が一方向に加速している」と判断するには不十分だということを、まず押さえておきたい。
なぜ価格は上がり続けているのか
「9か月連続の上昇」という見出しは、需要過熱だけで説明できない。背景には、少なくとも3つの構造的な要因が重なっている。
① 建設費の上昇
資材費(鉄鋼・コンクリートなど)や建設現場の人件費の上昇は、分譲価格に転嫁されやすい。需要の強弱とは別に、価格を押し上げる要因として機能しやすい。
② 都心の用地制約
東京23区ではマンション用地の供給が限られており、再開発などで生まれる案件は希少になりやすい。用地取得の競争が続くと、土地コストは下がりにくい。
③ 高価格帯物件の比率の変化
建設費と用地費が高い局面では、デベロッパーが収益を確保しやすい高価格帯・高グレード物件に軸足を移す傾向が出やすい。結果として、高額物件の市場比率が上がり、平均価格をさらに押し上げやすくなる。
まとめると、単に「買いたい人が増えたから上がる」というより、**「作るコストと供給の構造が、価格を高い水準に固定させやすい局面」**という側面が強い。
今は「高騰」か「高止まり」か――前年比と前月比を分けて見る
前年比+14.2%という数字だけ見ると、今まさに急上昇しているように映る。しかし足元の温度感を確認するには、**前月比(前の月との比較)**も重要になる。
首都圏の平均価格(戸当たり)は、2025年8月に約1億325万円をつけた後、緩やかに落ち着く動きが続いている。

(出典:不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向」各月公表値)
前年比は「去年と比べて高いか」を示し、前月比は「直近で加速しているのか、落ち着いているのか」を示す。2つを合わせて読むと、現状は**「高値圏での高止まりに、やや一服感が混じる」**局面と表現するのが近い。「まだまだ加速している」でも「値崩れが始まった」でもない。
東京23区「平均1億円超」は構造的に起きやすい
東京23区の平均が1億2,126万円というのは、短期の偶然だけでは説明しにくい。建設費・用地制約に加え、再開発やタワーマンションなど高額案件が平均を引き上げやすい構造が、23区には根付いている。
重要なのは、「1億円超が異常事態」と見るより、**「都心の平均は構造的に上に振れやすい」**と理解することだ。「いつか23区で手頃な価格帯が戻るはず」という前提だけで待ち続けるのは、リスクのある選択になり得る。
一方で、都下(多摩地区)や神奈川・埼玉・千葉の主要駅周辺には、利便性を確保しながら価格が相対的に抑えられる選択肢も存在する。「23区」という行政区分にこだわる前に、自分が本当に必要な条件(通勤時間・教育環境・生活動線など)を先に整理する方が、現実的な判断につながりやすい。
価格より大事な論点――住宅ローンと「買いやすさ」の本質
購入可否を最終的に左右するのは、平均価格よりも金利と返済額だ。
- 価格が上がっても金利が低ければ、月々の返済額は抑えられる
- 価格が横ばいでも金利が上がれば、返済負担は増え、審査も厳しくなり得る
つまり、価格と金利の両方を同時に見ないと、「買えるか買えないか」は判断できない。
実務的な順番として、まず月々の返済額の上限を決め、そこから逆算して予算レンジを固めるのが判断を早くする。一般に、返済負担率(月々の返済額÷手取り月収)の目安として25〜30%以内が語られることが多い。
金利条件の比較・事前審査・返済シミュレーションを物件探しと並行して進めておくと、実際に物件が出たときの意思決定が早くなる。
この相場で検討を進める際の要点
① 「首都圏平均」ではなく、自分の検討エリアの相場を見る
首都圏平均・23区平均はあくまで目安だ。自分が検討しているエリアの㎡単価・成約事例(実際に売れた価格)を確認することが出発点になる。
② 条件の優先順位を3つ程度に絞る
立地・広さ・築年・価格・駅距離など、住まいに求める条件は多岐にわたる。発売戸数が少ない局面では、すべてを満たす物件を探し続けると判断が遅れやすい。「絶対に譲れないもの3つ」を先に決めておくと、物件を見たときの判断軸が明確になる。
③ 資金計画を物件探しと同時に固める
良い物件に出会ったとき、資金計画が固まっていないと即断できない。事前審査・頭金の確認・金利プランの比較は、物件探しと同時並行で進めておくのが実務的だ。
④ 「待てば大きく下がる」という前提は持ちすぎない
建設費・用地制約という構造的な要因がある以上、大幅な価格下落は起きにくい環境が続いている。「もう少し様子を見よう」が長期化するリスクも念頭に置き、自分のライフプランと照らし合わせて判断することが重要になる。
まとめ
- 首都圏8,383万円と23区1億2,126万円は対象範囲が異なる別の数字。両者の差は3,743万円で、エリアによって現実は大きく異なる
- 平均価格は物件の”顔ぶれ”に左右されるため、発売戸数が少ない月(今回は628戸)はブレやすい
- 価格上昇の背景には需要だけでなく、建設費・用地制約・商品構成の変化という構造的な要因がある
- 前年比では上昇が続く一方、前月比では夏のピークから一服。現状は**「高止まり+一服」**が実態に近い
- 購入判断では価格だけでなく、金利と返済額を同時に見て資金計画を固めることが判断の精度を上げる
- 漫然と待つより、検討エリアの局地相場確認・条件整理・資金計画の並行が実務的な次の一手になる
データ出典:不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向」

