GDPはプラス0.2%でも「失望」──日銀の利上げ期待と円・銀行株が揺れた理由

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GDPはプラス0.2%でも、なぜ「失望」?

2026年2月16日の朝、内閣府が発表した一つの数字が、その日の株式市場を静かに揺らした。

数字は「前期比プラス0.1%、年率換算でプラス0.2%」。マイナスではない。2四半期ぶりの成長回復でもある。なのにその日の経済ニュースはこぞって「失望」「弱い」という言葉を並べ、銀行株を中心に売りが広がった。

なぜ、プラスの数字がマイナスのニュースになるのか。

その理由を一つひとつ解きほぐしていくと、GDP・日銀・金利・円・株価という、普段は別々に語られる話が、実はひとつの線でつながっていることが見えてくる。

【期待との差が“悪材料”になる仕組み】

■ 問題は数字の大きさではなく、「期待との差」だった

経済指標を読むとき、数字の絶対値よりも重要なことがある。それは「市場が事前に何を期待していたか」との差だ。

今回、事前の市場予想(ロイター調査の中央値)は年率プラス1.6%だった。実際の結果はプラス0.2%。成長はしているが、期待を大きく下回った。

指標は「結果」ではなく「予想との差」で価格に織り込まれる。プラス成長であっても、想定より弱ければ悪材料として扱われる。これが経済ニュースの基本的な読み方だ。

市場はこの落差を「日本の景気は思ったより力強くない」というシグナルとして受け取った。

【内訳が示した“崩れてはいないが強くもない”】

■ 中身を見ると見えてくる、日本経済の「今」

GDPの数字そのものより、その内訳を見ると日本経済の現在地がより鮮明になる。

GDPの半分以上を占める個人消費は、プラス0.1%で7四半期連続のプラスを維持した。ただし、前の期よりも伸びが鈍った。携帯電話などは好調だった一方、自動車は不振。消費は続いているが、勢いは落ちている。

輸出はマイナス0.3%で、2四半期連続のマイナスだった。自動車輸出は回復傾向にあるものの、それ以外の品目が全体を押し下げ、差し引きするとマイナスとなった。輸出の弱さは外需(純輸出)を通じてGDPを下押ししやすく、成長率の上値を抑える方向に働いた。

まとめると「崩れてはいないが、力強くもない」。これが2025年末の日本経済の正直な姿だ。

【銀行株が売られた理由は“金利そのもの”ではない】

■ 金利期待の後退とイールドカーブ

その日、日経平均は135円安で終えたが、特に売られたのが銀行などの金融関連銘柄だった。GDPの発表と銀行株の下落。一見、関係がないように見えるが、その間には一本のロジックがある。

まず、GDPが弱いと何が起きるか。

景気が弱いと判断されると、日銀が利上げを急ぐ必要がなくなるという読みが市場に広がる。ここで重要なのは「利上げがなくなった」という単純な話ではなく、「今後の利上げのペースや到達点(どこまで金利を上げるか)への期待が後退した」という点だ。

この期待の後退は、短期金利だけでなく長期金利の見通しにも影響し得る。短期から長期まで、さまざまな年限の金利の動きを示した曲線を「イールドカーブ」と呼ぶ。景気が強く利上げが続くと見込まれるときは、この曲線は右肩上がりに傾き(長短金利差が拡大し)、銀行にとって有利な環境になりやすい。逆に利上げ期待が後退すると、この曲線は平坦になりやすく(長短金利差が縮まり)、銀行の収益環境は改善しにくい。

銀行の利益は、低い金利でお金を調達して高い金利で貸し出す「利ざや」によって成り立っている。長短金利差が縮まれば、この利ざやが広がりにくくなる。だから金融株が売られた。

正確に言えば、銀行株が嫌われたのは「利上げがなくなった」からではなく、「利上げのペースや到達点への期待が後退し、イールドカーブの拡大シナリオが薄れた」ためだ。

もっとも長期金利は、米金利や国債需給、リスク選好にも左右されるため、GDPだけで決まるわけではない。だが少なくともこの局面では、「日本の景気は想定ほど強くない」という材料が、利上げ期待を冷まし、金融株の評価に直撃した。

なお、その日の午後には下落幅が縮小し、一時プラスに転じる場面もあった。前の週に下がった銘柄を安いうちに買い戻す動きが入ったためで、市場が単純に一方向に動くわけではないことも示している。

【日銀は“利上げできない”のではなく“急げない”】【板挟みの正体】

■ 利上げを急げない事情、捨てられない理由

では日銀は今後、どう動くのか。ここが今回の発表でもっとも注目を集めた論点だ。

結論から言うと、日銀は板挟みの状況にある。

一方では、景気が弱い。GDPがほぼ横ばいで消費も鈍い以上、追加利上げの時期を急ぐ根拠は薄れた。海外メディアでも、今回の数字が利上げ時期を後ろにずらす方向に働くとの見方が、市場で意識されやすくなったと報じられた。

もう一方では、物価と賃金の上昇が続いている。日銀はかねてより「賃金と物価が一緒に上がる好循環」を政策正常化の条件としてきた。その条件は、弱いGDPが出たからといってすぐに消えるわけではない。弱いGDPは、利上げ路線を止める“決定打”にはならない、という見立ても根強い。

さらに、弱い成長が追加の財政支出を後押しする可能性がある、という政治・財政の文脈も加わる。金融政策だけでなく、財政政策との組み合わせで市場を読む視点が重要になる局面だ。

つまり日銀は、「景気が弱いから利上げを急げない」「でもインフレと賃金上昇が続くなら利上げ路線を捨てにくい」という状況で、次の一手のタイミングを慎重に探ることになる。「するかしないか」ではなく「いつ、どの程度のペースで進めるか」の問題として、市場は受け止めている。

【円相場への波及は“確率の変化”】【生活と企業収益の両面】

■ 利上げ観測の変化が為替を動かす

日銀の利上げ期待が後退すると、円相場にも影響が出る。

金利が高い通貨は買われやすく、低い通貨は売られやすい。日銀の利上げペースが鈍るとの観測が広がれば、日米の金利差が縮まりにくいとみなされ、円は売られドルが買われやすくなる。今回の発表後も、短期的な利上げ確率の低下を織り込む形で円が弱含む場面があったと報じられている。

円安は輸出企業の業績や株価には追い風になりやすい。一方で輸入品の価格を押し上げ、食品やエネルギーなど日常生活に直結するコストの上昇につながりやすい。家計には逆風でも、市場全体では恩恵を受けるセクターもあるため、円安の影響は一方向には決まらない。

ただし為替は、国内のGDPだけで動くわけではない。アメリカの金利動向、世界の政治・経済情勢、日本の財政状況など、複数の要因が絡み合う。今回のGDPはその「引き金の一つ」に過ぎず、為替の方向を断定するのは難しいというのが実態だ。

【株は“指数”より“金利感応度”】【勝ち負けが分かれる構図】

■ セクターごとの明暗

株式市場全体で見ると、この日の日経平均は小幅な下落にとどまった。ところが「市場全体は小動き」という言葉の裏で、セクター(業種)ごとの明暗は大きく分かれていた。

金融株(銀行・保険など)は前述のイールドカーブの平坦化懸念から売られやすかった。一方、グロース株(成長株)には追い風になりやすい面がある。金利の上値が重い局面では、将来の利益を現在価値に換算する際の「割引率」が上がりにくく、成長企業の株価が相対的に下がりにくくなるためだ。

輸出株は、円安が進めば業績期待で買われやすい側面がある一方、世界経済の需要不安が重なると評価が割れやすい。内需株は消費の鈍さが重しになりやすいが、政府の景気刺激策への期待が出ると物色が生まれることもある。

「指数は小さく動いても、中身は大きく動く」。今回の相場はその典型だった。

【結論:一つの数字が連鎖を動かす】

■ GDP・日銀・金利・円・株価はつながっている

一つのGDP発表から始まった波紋は、こんなふうに広がっていった。

GDPが予想を下回る → 景気の力強さへの疑問が広がる → 日銀の利上げペース・到達点への期待が後退する → イールドカーブが平坦化しやすくなる → 銀行株が売られ、円が弱含む → 輸入物価の上昇圧力が続く。

経済ニュースは難しく見えるが、その多くはこうした「連鎖」の話だ。一つひとつのつながりを理解すれば、次のニュースが出たときに「ああ、あの話の続きか」と読めるようになる。

今後の注目点は、春の賃金交渉(春闘)の結果と、日銀が次の政策会合でどんな言葉を使うかだ。加えて、サービス価格の粘着性——つまり賃金上昇が価格に転嫁されるインフレが続くかどうか——が日銀の判断を左右する重要な論点となる。これらの動向次第で、日銀の「次の一手」のタイミングが変わり、それがまたイールドカーブを動かし、円と株を揺らす。

経済の連鎖は、まだ続いている。


※本記事で使用しているGDPは1次速報値であり、後日改定される場合があります。
発表日時:2026年2月16日 8時50分(内閣府)
対象期間:2025年10〜12月期 実質GDP(1次速報)
実質GDP成長率:前期比+0.1%、年率換算+0.2%
市場予想(ロイター中央値):前期比+0.4%、年率+1.6%

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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