病床11万床減少案の狙いと課題──医療費削減効果を検証

目次

はじめに

社会保障制度の持続可能性確保をめぐり、医療費の伸び抑制と保険料負担軽減は政府・与党にとって優先課題となっている。背景には、総人口減少と高齢化の進展に伴い、医療リソースの需要構造が大きく変化している現状がある。入院患者の長期療養ニーズや慢性期ケアの増加に伴い、病床利用効率の低下と医療費の高騰が問題視されてきた。

2025年5月23日、自民党・公明党と日本維新の会による実務者協議が初めて国会内で開催され、病床削減を通じた医療費削減策が提示された。維新の会は、全国で約11万床を削減することで年間約1兆円の医療費節減が可能と試算。与党両党も削減規模の考え方には一定の理解を示したものの、提案内容を正式な協議文書として位置づける点でなお調整を要する状況にある。

本協議には、削減対象とされる急性期・回復期・慢性期病床の区分や、削減実施後の医療機能分化、在宅医療への移行体制整備など、多岐にわたる技術的論点が含まれる。病床削減による財政効果と、医療提供体制や患者利便性への影響を併せて検証する必要があり、今後の国会審議および地域医療構想調整会議での議論が注目される。

病床削減案の概要

提案規模と削減目標
日本維新の会が示した試算において、全国で約11万床の病床を削減することで、年間約1兆円の医療費削減効果を見込む。これは国内の病床総数(約170万床)の約6%に相当し、地方や大病院を含む全体的な病床最適化を前提としている。

削減対象となる病床区分
削減対象は急性期、回復期、慢性期(医療療養)など各機能区分を問わず設定可能とされているが、特に慢性期の長期療養ベッドや、回復期リハビリの必要性が低いと判断される病床が主な焦点となる。具体的な区分・割合は、今後の地域医療構想調整会議で検討される。

検討プロセスと合意状況
5月23日の実務者協議で維新の会は削減数の根拠を説明し、自公両党も文書案の中身にはおおむね同意を表明。ただし、削減実施のスケジュールや文書の正式な位置づけについては未合意のまま調整を継続する方針となっている。

運用スキームの想定
削減後は都道府県単位の地域医療構想に基づき、機能分化を徹底。急性期病院では重症・救急患者の受け入れを優先し、回復期および慢性期ケアは在宅医療や介護施設にシフトすることで、医療需要に応じたベッド配置とケア連携を強化する枠組みを想定している。

期待される効果

医療費の大幅削減
全国で約11万床を削減する試算により、年間約1兆円の医療費削減効果が見込まれている。この金額は、現行の医療費総額(約50兆円)の約2%に相当し、財政負担軽減に寄与する規模となる。

保険料負担の軽減
医療費削減を財源とすることで、社会保険料の年間負担額が平均で約6万円程度低減すると維新の会は試算している。被保険者一人あたりの負担軽減は、中所得世帯にとって実質的な家計支援となる。

医療リソースの効率化
ベッド数の適正化を契機に、急性期・回復期・慢性期それぞれの機能分化が一層進む。重症・救急患者への対応を急性期病院に集中させることで、医療提供体制の効率が向上することが期待される。

在宅医療・介護への促進
病床削減が進むことで、回復期や慢性期患者が在宅や地域包括ケアへ移行しやすくなる。訪問看護やリハビリ施設の需要が高まり、病院から地域へのケアシフトが加速すると見込まれる。

中長期的な制度持続性の確保
医療費の伸びを抑制し、保険料収入とのバランスを保つことで、社会保障制度全体の持続可能性が向上。高齢化が進む将来に向けた財政基盤の安定化につながる。

患者・地域にもたらすリスク

入院受け入れ制約
病床数が減少すると、特に急性期や専門的治療を必要とする患者の入院枠が手狭になり、受け入れ拒否や転院増加のリスクが高まる。

在宅医療・介護負担の増大
退院後に在宅ケアや介護サービスへ移行する患者が増え、訪問看護・リハビリ体制の不足が深刻化。家族介護者の負担増加や介護離職を招く可能性がある。

地域間医療格差の拡大
都市部と異なり、地方や過疎地域では代替施設・在宅支援が整備されにくく、病床削減の影響をより強く受ける。結果として、医療アクセスに地域差が生じる懸念がある。

再入院・急性期混雑による逆コスト
慢性期患者の退院後ケア不足で状態が悪化し再入院が増えると、急性期治療費が上積みされ、かえって医療費全体が増大するケースが指摘されている。

補完策と今後の展望

機能分化と地域医療構想の徹底
都道府県単位の地域医療構想調整会議を活用し、急性期・回復期・慢性期の各病床数を実需に応じて精緻に調整。病床削減後も医療提供体制が破綻しないよう、各施設の役割分担を明確化する。

在宅・地域ケアインフラの拡充
訪問看護ステーションや地域包括ケアセンターの設置・人員確保を推進。リハビリテーション拠点や短期入所施設(ショートステイ)を増設し、退院後の支援体制を強化する。

データ駆動によるモニタリング体制
ベッド稼働率や再入院率、在宅ケア利用状況など主要指標を定期的に収集・分析。医療費や患者アウトカムの推移を可視化し、政策効果を検証したうえで削減目標を見直す仕組みを整備する。

関係者間の調整と合意形成
医療機関、自治体、患者団体、介護事業者らとの協議を継続し、削減計画の具体的内容を文書化。次回の実務者協議および国会審議では、給付見直しやスケジュール調整など未合意項目に焦点を当てる。

段階的実施と評価のサイクル
削減規模を段階的に設定し、第一段階の効果・課題を評価してから次の段階に移行。地域ごとの事情に応じたカスタマイズを可能にし、全国一律ではなく柔軟な運用を図る。

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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