アメリカ・卸売在庫(Wholesale Inventories)は、米国の卸売業者が保有する在庫額の月次統計であり、サプライチェーンや企業活動の変化を読み取るための重要な経済指標です。発表主体は米商務省経済分析局(U.S. Census Bureau)で、卸売販売額(Wholesale Sales)とともに「卸売業報告書(Wholesale Trade Report)」として公表されます。
この指標は、GDPにおける在庫投資の一部を構成するため、景気循環の分析や四半期GDPの事前予測などにおいても欠かせないデータとされています。
経済における意義と市場での役割 #
卸売在庫は、企業が将来の需要をどう見込んでいるかを間接的に示す手がかりとなります。在庫が積み上がる場合、需要の鈍化や供給過剰が懸念され、一方で在庫が減少していれば、需要の強さや供給逼迫が意識されます。特に、在庫の増減はGDP成長率の変動要因となりやすいため、エコノミストや投資家にとって注視すべき指標です。
また、在庫の動きは生産調整のタイミングとも連動するため、製造業や物流関連の企業活動を占う上でも活用されます。
発表スケジュールと内容構成 #
卸売在庫は、対象月の翌月中旬に速報値、さらに翌月上旬に確報値が公表されます。たとえば、3月分の速報は5月初旬の確報より早く発表され、GDP統計の初期推計にも活用されるケースがあります。
報告書では、在庫額全体に加えて、耐久財(Durable Goods)と非耐久財(Nondurable Goods)に分類したデータも提供されます。これにより、どの分野で在庫が積み上がっているのか、あるいは解消が進んでいるのかをより細かく把握することができます。
関連指標との違いと補完関係 #
卸売在庫は、小売在庫や製造業在庫と並ぶ「在庫統計三本柱」の一つです。製造業在庫は生産現場、小売在庫は消費段階に近く、卸売在庫はその中間に位置するため、サプライチェーンの“橋渡し”的な性格を持ちます。
また、ISM製造業景気指数の構成項目にも「顧客の在庫」や「在庫」関連の項目があり、これらと組み合わせて読み解くことで、需給バランスの変化や景気の転換点を察知するヒントになります。
読み解き方と注意点 #
在庫の変動は一見すると単なる「積み上がり・減少」に見えますが、その背景にある需要の強さ・弱さや、物流のボトルネック、インフレ期待の変化などを読み取ることが重要です。
たとえば、在庫が増えていても、売上も同時に増えていれば健全な成長と評価されますが、売上が横ばいのまま在庫だけが増える場合は、将来の生産減少や値引き圧力が警戒されます。また、在庫比率(在庫÷販売)などの補助指標も活用すると、全体像がより明確になります。