トランプ政権が進める「3つの大型テコ入れ策」──米国経済と市場への影響を読む

目次

海外投資を呼び込む仕組み

米国経済を下支えする大きな柱のひとつが、海外からの巨額投資である。2025年以降、日本のソフトバンクや台湾のTSMC、スイスやドイツの製薬会社に加え、中東の政府系ファンドなどが相次いで投資枠を表明している。その総額は4.8兆ドルを超え、資金の多くがエネルギーや先端産業、インフラ分野に向けられる見通しだ。

この投資誘致の背景には、トランプ関税を交渉材料としたディール型の戦略がある。関税引き上げをちらつかせ、輸出国や企業に米国への投資を迫る手法だ。例えば、TSMCは米国への半導体投資を大規模に約束し、日本や欧州の企業も自動車・鉄鋼・製薬などの分野で投資拡大に踏み切った。中東の政府系ファンドによる巨額投資も、エネルギーや安全保障をめぐる取引の一環と位置づけられる。

つまり、関税を「脅し」として使うのではなく、「関税緩和や市場アクセスと引き換えに投資を引き出す」形でディールが成立しているのである。これは単に貿易赤字を縮小する狙いにとどまらず、米国内に工場と雇用を取り戻し、政治的実績を積み上げる戦略といえる。

さらに、米国債市場の投資家構造も変化している。かつては中国や日本といった公的マネーが主要な保有者だったが、両国の比率は低下傾向にある。その一方で、ケイマン諸島などタックスヘイブンを経由した資金が増加しており、実態としては米欧の機関投資家やヘッジファンドが米国債の支え手となっている。こうした構造の変化も、米国が海外資金を積極的に呼び込む動きを後押ししている。

国民資産を市場に誘導する「トランプ口座」

もうひとつの仕組みが、国民の投資資金を米国市場に取り込む制度である。新設が検討されている「トランプ口座」は、出生時に政府から1,000ドルが拠出され、さらに親族や勤務先から年間上限額まで資金を追加できる。拠出は18歳まで可能で、資金は米国株指数に連動する投資信託で運用される仕組みだ。
18歳以降は引き出しが可能となるが、教育や住宅、老後資金といった用途には税制上の優遇措置が設けられる見込みである。事実上、米国版の長期投資口座といえるこの制度は、国民の資産形成を支援すると同時に、株式市場への安定的な資金流入を生み出すことになる。

金融規制の見直しと資金供給力の強化

トランプ政権は金融規制の緩和にも踏み込んでいる。消費者保護局の業務を大幅に縮小し、フィンテック企業の負担を軽減。暗号資産については厳格な会計基準を廃止し、ステーブルコイン関連の法整備を進めることで市場の拡大を後押ししている。さらに、銀行監督の簡素化により、取引拡大を促す姿勢も打ち出した。
特に注目されるのが、補完的レバレッジ比率(eSLR)の引き下げである。資本水準を従来の5〜6%から3.5〜4.5%に緩和することで、銀行が国債や貸出資産を保有しやすくなる。加えて、国際的な自己資本規制であるバーゼルⅢの最終化についても、延期や緩和の可能性が意識されており、規制緩和の流れは一段と鮮明になっている。

株価とGDPの乖離が示す課題

長期的にみると、米国株(S&P500)と名目GDPは強い相関関係を保ってきた。しかし最新のデータでは、S&P500はGDPのトレンドラインを大きく上回って推移している。これは政策効果や海外マネー流入による株価押し上げを映し出す一方で、過熱感や割高感を呼びやすい状況でもある。
株価は経済成長の実力値を超えて上振れているため、景気指標の悪化や金融政策の変化などをきっかけに調整が起こる可能性は否定できない。投資家にとっては、上昇相場に安易に追随するのではなく、調整局面に備えて資金的余力を持つことが重要になっている。

結論

トランプ政権が進める「海外投資誘致」「トランプ口座」「金融規制緩和」という3つの大型テコ入れ策は、米国経済に巨額資金を呼び込み、株式市場を押し上げる効果を生んでいる。その一方で、株価は名目GDPとの関係からみて割高な水準にあり、過熱感が強まっているのも事実だ。
米国市場の強さを享受しつつも、リスク管理を怠らず、調整に備えた戦略をとることが投資家に求められている。


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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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