行動経済学で深める顧客理解──資産形成コンサルタントと顧客双方に重要な心理の実態

行動経済学とは何か

行動経済学は、従来の経済学やファイナンス理論が想定する「人は常に合理的に判断・行動する」という前提に疑問を投げかけ、人間の心理的バイアスや感情が意思決定にどのような影響を与えるかを研究する学問分野です。合理的な選択とは異なる行動パターンを解明し、実際の行動をより正確に理解しようとします。


コンサルタントにとっての行動経済学の重要性

資産形成コンサルタントは、顧客の資産運用をサポートする際、単に数値や理論だけでアドバイスを行うのでは不十分です。人は必ずしも合理的に行動しないため、顧客の心理や行動パターンを理解し、その上で最適なサポートを提供することが求められます。行動経済学を理解していれば、顧客がどのような理由で合理的でない選択をするかを予測でき、信頼関係を深めつつ、目標達成に向けた実効性の高い提案が可能となります。


顧客にとっての行動経済学の重要性

一方、顧客自身も「己を知る」ことは資産形成において非常に重要です。自分がどのような心理的傾向やバイアスに影響されやすいかを理解することで、無意識のうちに行ってしまう非合理的な判断を防ぎやすくなります。合理的な投資判断を継続しやすくなり、長期的な資産形成の成功確率を高めることにつながります。


代表的な4つの合理的でない行動パターン

損失回避の法則

人は利益を得ることよりも損失を避けることを強く望む傾向があります。例えば、確実に2万円もらえる選択肢と、50%の確率で5万円もらえるが負ければ何も得られない選択肢があった場合、多くの人は期待値が高い後者よりも確実な前者を選びます。これは損をしたくない心理が意思決定に大きな影響を与えているためです。

確実性の法則

わずかな差であっても、100%の成功と99%の成功では受ける印象が大きく異なり、人は「確実である」と感じられる選択肢を好みます。リスクがほとんど同じでも、心理的には大きな違いを感じてしまい、確実性を過大評価してしまう傾向があります。

サンクコスト効果

過去に費やした時間やコストを「もったいない」と感じてしまい、そのために非合理的な行動を続けてしまう現象です。例えば、株価が下落しているにもかかわらず、損失を取り戻そうとして保有し続ける心理がこれにあたります。この効果は冷静な判断を妨げることがあります。

ナッジ理論

人に対して強制せずに「より良い選択」を促す手法です。例えば、確定拠出年金の加入申請書で「加入する」が初期設定(デフォルト)になっている場合、多くの人は特に抵抗なく加入します。これは、無言のプレッシャーや選択の容易さが人の行動を誘導する効果を利用しています。


以上のように、行動経済学の知見は資産形成コンサルタントと顧客双方にとって、より良い意思決定と効果的な資産運用を実現するうえで不可欠です。合理的でない行動の背景を理解し、適切に対応することが、信頼関係の構築と顧客満足度の向上にもつながります。

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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