三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は、約1.58 億米ドル(約2,400億円)相当の資金を投じ、インドのYes Bankに発行済株式の20%を取得することで合意した。これによりSMBC(SMFGの銀行子会社)は、State Bank of India(SBI)から13.19%、AxisやHDFC、ICICIなど7行から合計6.81%を買い取り、Yes Bankの最大株主となる見込みだ。投資交渉は1年以上にわたり粘り強く行われ、RBI(インド準備銀行)やCCI(競争委員会)の承認を経て正式決定する。SMFGはこれをアジア戦略の“収穫期”に移行させる起点と位置づける。
1.はじめに
日本のメガバンクグループ、三井住友FGは2025年5月、インドのYes Bankへ約1.58 億米ドル(約2,400億円)の出資を行い、株式20%を取得する契約を締結した。これは、State Bank of India(SBI)の保有株の13.19%(8,889 億ルピー)、およびHDFC、ICICI、Axisなど7行が保有する6.81%(4,593 億ルピー)を買い取る形で実施される計画である。出資にはRBIおよびインドの競争委員会(CCI)の承認が必要で、SMBCはYes Bankの最大株主となる見込みだ mintビジネススタンダード。
2. 投資の背景:三井住友FGのアジア戦略
2.1 マルチフランチャイズ戦略の歩み
SMBCグループは2013年以降、インドネシア、フィリピン、ベトナムで持分法適用会社や子会社化を進め、「第2・第3のSMBC」を各国に展開するマルチフランチャイズ戦略を推進してきた 三井住友フィナンシャルグループ。同戦略では、現地大手企業への資本参加と、SMBC本体による財務支援や人材派遣を通じて、フルラインの商業・小口・デジタル金融サービスを一貫して提供し、ポストM&A統合(PMI)を重視する。2023~24年度には、インドではSMFGインドクレジット(旧Fullerton India)、フィリピンではRCBC、ベトナムではVPBank、インドネシアではOTO/SOFなどが戦略の中核を担っている 三井住友フィナンシャルグループ。
2.2 インド市場の魅力
インドは2023年4月に人口14.26億人で中国を抜き、世界最大の人口国となった(国連推計) The Guardian。人口ボーナス期を迎えつつあり、金融業は「GDPビジネス」として人口規模に比例した成長が期待されるため、SMFGはインドをアジア戦略の“最後のピース”と位置づけてきた フォーブス。
3. イエス銀行──企業概要と経営状況
3.1 銀行概要
Yes Bankは2004年5月にRBI(インド準備銀行)から銀行業免許を取得し、2005年6月にムンバイ証券取引所へIPOを実施したプライベートセクター銀行である ウィキペディア。本部はムンバイにあり、300以上の地区に1,198支店、約1,287台のATM網を展開している ウィキペディア。
3.2 財務ハイライト
- 総資産規模:2025年3月末時点で約4.177兆ルピー(約6.2兆円) CompaniesMarketCap。
- FY25(2024年4月~2025年3月)純利益:2,406億ルピー(前年同期比+92.3%) Yes Bank。
- Q4FY25四半期純利益:738億ルピー(前年同期比+63.3%、前四半期比+20.6%) Yes Bank。
- 自己資本利益率(RoA):0.6%(FY24は0.3%) Yes Bank。
- ネット金利マージン(NIM):FY25で2.4%、Q4FY25で2.5% Yes Bank。
- 不良債権比率(NNPA):0.3%(前期1.1%→0.3%)と健全に管理 Yes Bank。
3.3 デジタル戦略
Yes BankはUPI(統一決済インターフェース)におけるPSP(決済サービスプロバイダー)としてトップシェアを誇り、国内トランザクションの約57%を取り扱う エクイティマスター。スーパーアプリやWhatsAppバンキングなど、多様なデジタルチャネルにより富裕層からMSME、個人向けまで幅広い顧客層を取り込んでいる。
4. 出資スキームと交渉プロセス
SMBCは、SBIから13.19%、HDFCやICICI、Axisなど7行から合計6.81%を二次市場取引により取得し、Yes Bankの持分法適用会社化を図る。総額は約13,482 croreルピー(≈1.58 億米ドル)に上り、インド銀行セクター史上最大のクロスボーダー投資となる予定だ mint。買付価格は1株当たり21.50ルピー(SBI株)で、18%のプレミアムが付与されている ビジネススタンダード。交渉は1年以上継続し、将来のRBI承認プロセスにおいては、商業銀行への5%超の出資要件をクリアするための追加説明やガバナンス強化策が焦点となった Reuters。
5. 戦略的インパクトとシナジー
5.1 フルバンキング実現への布石
Yes Bankの預金・融資・決済機能を取り込み、SMBCグループの既存ノンバンク子会社(SMFG India Credit)との連携で「一気通貫のフルバンキング」を実現する。特に中小企業(MSME)やデジタル決済領域での相乗効果が見込まれる 三井住友フィナンシャルグループ。
5.2 リスク分散と収益多様化
インド経済は高成長だが、政治的リスクや為替変動、世界景気の不透明感も大きい。さらに、ベトナムのFEクレジット等で明らかになった現地子会社の収益回復遅れなど、PMI後の統合・収益化プロセスが成功の鍵となる。SMBCはこれらの経験を踏まえ、ガバナンス強化と現地経営への積極的関与を進める方針だ 三井住友フィナンシャルグループ。
6. 主要リスクと課題
- 規制環境:5%超出資にはRBIの承認が必須で、外国単独投資家の議決権上限(26%)にも留意が必要 Reuters。
- 市場環境:トランプ政権の関税政策をはじめグローバル景気の不透明化が与信環境を揺るがす可能性がある。
- 過去の教訓:ベトナム等での投資実績ではROEが低迷した事例もあり、SMBCは各国・各子会社での収益化ステップを厳格に管理する必要に迫られる。
7. 今後の展望とまとめ
中島社長体制下で、投資先のPMIを加速し、アジアにおけるマルチフランチャイズ戦略の“収穫期”を迎える。特にインド市場では、預金・融資・決済をワンストップで提供し、デジタル金融を通じた収益基盤の拡大を図る。今回のYes Bank出資は、その第一歩として位置づけられ、SMFGグループの成長戦略を大きく前進させるものと期待される。
関連リンク:
- 日本銀行(BOJ)公式サイト ─ 国内金利や政策決定の確認に。
- 米連邦準備制度理事会(FRB)公式サイト ─ FOMCや声明内容はこちら。
- Bloomberg(ブルームバーグ日本版) ─ 世界の金融・経済ニュースを網羅。
- Reuters(ロイター日本語版) ─ 最新のマーケット速報と経済記事。
- TradingView ─ 株価・為替・指数チャートの可視化に便利。